既に彼の物はズボンの中で巨大になっていたが、こんな場合、そんなことになっていいのだろうかという懸念が、彼の心に芽生えた。彼女はただ純粋に抱擁したいだけで、そういう欲望まではないのだと、自分を抑制しようとした。
しかしそんなことは、すっかり彼女に読み取られていた。理栄は精一のズボンの前にその小さな手を当てて、「あら、まあ」と言って微笑んだ。それは少し震えたような、弱弱しい微笑みだった。彼女の目の周りには、涙のあとが残っており、電気の光を反射して、微かに輝いていた。
彼女の涙のあとを見て、精一はとても気の毒になって、今度はこちらから唇を合わせた。理栄は素直に応じてくれた。それだけではなく、彼のズボンの前に当てた手を動かして、彼の物を刺激し始めた。
もはやこれは、精一にはたまらない行為だった。彼が立ち上がると、理栄も唇を合わせたまま立ち上がった。彼が立ち上がったのはズボンとパンツを脱ぎやすくするためだったのだが、そんなことは彼女はもう十分承知している様子だった。何故なら彼女の方も、はいていたズボンを脱ぎ始めたからだ。
二人とも下半身裸になってからは、何もかもが早かった。あっという間に両人とも全裸になり、交合の態勢になった。要するに彼の物は、理栄のコリコリに包まれたわけだ。
何も話らしい話もせずに、二人はそのまま性行為に入ってしまったわけだが、これ自体、それほど珍しいことでもなかった。初めてこの部屋に入った時もそうだった。彼らの関係は、性行為から始まった。そしてそれから深い対話に至ったというわけだ。
それにしても理栄のコリコリは、いつ包み込まれても心地よいものだった。以前付き合っていた悪い男に教わった技だと言っていたが、精一は密かにその悪い男に感謝したことがあるくらいだった。
もちろん、そんなことは理栄の前では言わない。彼女にしてみれば、そんな歴史は単なる黒歴史であって、二度と思い出したくもないほど忌まわしいものであるに違いなかったからだ。そんな歴史に対して感謝の意を表したいなどとは、夢にも考えたことはないことだろう。
さて二人は全裸のまま布団の中で体を並べて横たわっていた。そして精一が言った言葉は、
「リエちゃん、ぼくと別れようなんて、思わんといてな」だった。
いきなり口にする言葉としては、女々しい言葉かも知れないが、彼の心にある本当の気持ちだから、ここは偽らずに口にすべきだと考えたのだ。
「そんなん、思うわけないやん」理栄がこっちを向いて、優しく述べた。しかしすぐに考え深い顔に変えて、
「ほんでも、大桃さんに睨まれたら、わたしら二人、生きにくくなるんとちゃうやろか」と懸念を述べた。
そこで精一は、
「ほんだら、ぼくが大桃さんに話をしに行く。ぼくにとって理栄はとても大事な人なんや。そのことを訴えに行く」と意気盛んに述べた。
すると理栄は、
「セイちゃんが直接訴えた方が、案外うまくいくかも知れんねえ。大桃さん、セイちゃんには一目置いてるみたいやから」と意外なことを言った。
「ぼくのこと、一目置いてんのん?」
「うん、そうやで。セイちゃんのこと、なかなか賢い人やて褒めてたことあった」
「ほんま? ぼく、大桃さんの前で賢いとこなんか見せたことあれへんのに」
「賢いかどうか、顔つき見たり仕草見たりしたら、ある程度分かるやんか。なかなか見込みあると思うたんちゃう?」
「見込みあるんやったら、リエちゃんとのお付き合いも認めてくれたらええのになあ」
「それとこれとは別や。セイちゃんは、あくまでも、精神障がい者としては賢いいうだけで、病気やない人たちとは対等に考えられてへんねん。そやからスタッフと付き合うやなんて、絶対あかんねん」
「絶対あかんって言われたら、取り付く島あれへんやん。ぼくが直接言いに行ってもあかんのんちゃう?」
「あかんかってもええやん。一度当たってみる価値はあると思うよ。やっぱりセイちゃん、なかなかのイケメンやし、大桃さんも、セイちゃんの顔見てるうちに、フニャフニャって溶けてくるんちゃう?」