日が差して暖かく、
庭先に出て吹く風を感じていると、
何だか自分が癌患者だなんて思えない。
確かに足腰は少し弱っている。
長い距離を歩くと、ちょっと疲れる。
でもそれは癌腫瘍のせいではなくて、
ただの老化現象だと思う。
この際、全部無視してしまおう。
癌なんて死病のことは、あたかも他人事として、
自分とは関係のないものだと、
無理に思い込むのもいいだろう。
明日は車で遠出をする。
行先は塩屋崎。
美空ひばりの歌で名を挙げた、
あの塩屋の岬へ行ってくる。
とくに私が美空ひばりのファンというわけではない。
だからといって、嫌いなわけでもない。
近くに景色のいい温泉宿があるらしいので、
そこへ一泊する。
癌の飲み薬一式。
インスリンの注射一式。
カバンに詰めて出かけよう。