NEXT INNOVATION株式会社の日向崇文です。
名刺をお渡しすると、しばしばこう聞かれます。
**「本社、東京に移さないんですか」**
悪気のない質問です。私の仕事は全国に散らばっていますし、打ち合わせも東京が多い。合理的に考えれば、そのほうが早いだろう、と。
けれど私は、本社を愛知に置き続けています。今日はその理由と、拠点の考え方について書いてみます。
---
## 東京は「行く場所」であって、「居る場所」ではない
私にとって東京は、必要があれば行く場所です。実際、渋谷にも拠点を構えています。人が集まり、情報が集まり、話が速く進む。その価値は本物だと思っています。
ただ、東京に居を移すと、見えなくなるものがあります。**地方の会社が、どんな速度で、どんな不安を抱えながら動いているかという肌感覚です。**
たとえば、地方の中小企業にとって、新しい取り組みを始めるハードルは東京の会社とはまったく違います。相談できる相手が近くにいない。前例がない。失敗したときに、地域の中で噂になる。だから「やってみよう」の一歩が重い。
この重さは、東京にいると想像するしかなくなります。そして想像で組んだ支援は、たいてい現場では動きません。私が本社を動かさないのは、郷土愛の話である以上に、**仕事の精度の問題**です。
## 拠点は「支社」ではなく「現場」だと考えています
現在、本社を愛知・一宮に置き、東京・渋谷、福岡・博多、富山・射水に拠点があります。
こう並べると、全国展開しているように見えるかもしれません。実際は違います。**拠点は、そこに仕事があるから存在しています。**逆に言えば、営業のために構えた場所はひとつもありません。
私の考える拠点の役割は、看板を掲げることではなく、**その地域の当事者になること**です。外から来て提案する人と、その土地で一緒に困っている人とでは、話の通り方がまったく違います。相手が本当のことを話してくれるまでの時間が、まるで違うのです。
前にこの連載で、「小さく始めて、合えば深く」という関わり方の設計について書きました。拠点の増やし方も、まったく同じ考え方をしています。まずご縁があって、仕事があって、そこに居る理由ができたときに、初めて置く。順番を逆にすると、維持することが目的の拠点が生まれてしまいます。
## 地方に足りないのは、情報ではなく「翻訳する人」
地方創生という言葉が使われるとき、しばしば「情報格差」が語られます。都市部の情報が地方に届いていない、と。
現場で見ている感覚は、少し違います。**情報は、届いています。**インターネットがあり、SNSがあり、都市部で流行っているものは、たいてい地方でも知られています。
足りないのは、**それを自分たちの文脈に翻訳する人**です。
「その手法は、この地域の商習慣だとこう変える必要がある」「その座組みは、この規模の会社ならこの部分だけ取り入れればいい」。この翻訳が挟まらないまま、都市部のやり方をそのまま持ち込むと、たいてい上手くいきません。そして一度失敗すると、「うちには合わない」という結論だけが残ります。
私が社外CGOという立ち位置で、地方の企業と都市部の座組みの両方に足を置いているのは、この翻訳をするためです。どちらか一方にしかいない人には、この役割は担えません。
## 名古屋の大高で育った人間として
もう少し個人的な話も書かせてください。
私は名古屋市緑区の大高というまちで生まれ育ちました。都市部で仕事を広げていた時期もありますが、最終的に地元に戻ってきています。
信用金庫に勤めていた頃、地域の会社を毎日回っていました。そこで見たのは、**良いものを持っているのに、日の目を浴びていない会社**がたくさんあるという事実です。技術がある。真面目に作っている。それなのに、伝え方や座組みのところでつまずいて、規模も知名度も広がらない。
あのとき感じた悔しさは、今の仕事の出発点になっています。そして、その悔しさを感じた場所から離れてしまったら、私の仕事は根を失うと思っています。
会社の理念に「歴史と伝統に学ぶ」という言葉を入れているのも、同じ発想です。新しいことをやるほど、足元がどこにあるかが効いてくる。
## 本社の場所は、誰のために働くかの表明です
前にこの連載で、会社をF1マシンに例えました。拠点戦略でいえば、本社は、マシンをどのコースで走らせるかという選択にあたります。
東京という最速のコースで戦うのも、ひとつの正解です。ただ私は、**地方の会社が本気で挑戦したときに勝てる**という証明を、自分の会社でしたいと思っています。そのためには、地方に本社があること自体に意味があります。
もし今、都市部への移転を迷っている経営者の方がいらっしゃったら、こう問い直してみてほしいのです。**移った先に、あなたの会社の一番の強みは付いてきますか。**
地の利、人のつながり、その土地でしか積み上がらない信用。それらが強みの中心にあるなら、動かさないという選択は、決して後ろ向きな判断ではありません。
私は、この場所から仕事を広げていきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
---
**日向崇文(ひゅうが たかふみ)**
NEXT INNOVATION株式会社 CEO/Founder
社外CGO(外部事業成長責任者)として、タレント支援・スポーツエンタメ支援・ブランドグロース支援を展開。
▶︎ 会社HP:https://nexthyuga.com