ドラマ「南城宴」
第18集 前編
<第18集 前編>
拂暁にどう説明すればよいのか。
趙沅から寧国の駙馬の件を打診された晏長昀は悩みに悩んだ。
駙馬とは、公主の夫のことを指す。彼の場合、佳陽の夫だ。
南国の民のためだ、朱銀粉問題を条約締結までに解決すればいいのだと趙沅から説得された晏長昀は、考えておくと返すのが精一杯だった。
天青苑へ戻った晏長昀は、悩みを吹き飛ばすかのように剣の鍛錬に打ち込んだ。
彼の剣技を見た佳陽が称賛する。
「長昀、私と一緒に寧国へ行けば、何でも望みを叶えてあげるわ。大将軍の地位もあなたのものよ」
拒否したいが、するわけにはいかない。晏長昀はただほほ笑み、小さくうなずいた。
「拂暁!!」
声が聞こえて、晏長昀と佳陽は大門のほうに視線をやった。やってきた趙沅が、灯籠の陰に隠れてのぞき見していた小強子に近づく。
「皇上、どうしたんです?」
「仕事で疲れたから、きみと運動でもしようかと思って」
「天気が悪いのに?」
今日は雨が振ったりやんだりの曇天だ。
小強子は少々雨が降っても遊べる、蹴鞠によく似た”踢毽子”を提案した。晏長昀を巻き込んで恥をかかせようという魂胆だ。
ところが、思った以上に晏長昀は”踢毽子”が上手かった。佳陽も加わるが、彼女にも趙沅にも羽根の付いた毽子は回って来ない。それどころか、晏長昀と小強子が蹴るたびに、趙沅に泥が飛んだ。
趙沅を見送った小強子が駙馬の件を知った。小強子は晏長昀の部屋へ行き、書物を読む彼を問い詰める。だが、晏長昀は自ら望んで決めたと話した。
実はその時、部屋の戸口に佳陽が立っていたのだ。
またもや統領府へ行った小強子は初月の部屋で愚痴を言い、酒を飲む。
「初月妹妹、晏長昀も権力と地位を欲するバカ男だったよ…」
泣きべそをかく小強子から晏長昀が寧国へ発つと聞いて、居てもたっても居られなくなった初月は、話をしてくると言って立ち上がる。だが、廊下へ出たところで当の晏長昀と出くわした。
晏長昀は酔いつぶれた小強子のそばにしゃがんだ。
「晏長昀は私なんか要らないんだ…」
「違うよ、彼も苦しい立場にいるんだ」
晏長昀は寝入る小強子の髪を撫でながら、優しくささやいた。
翌朝、偶然にも小強子の部屋の前を通りかかった晏長昀は、扉が開いていることに気付いた。
部屋を覗いても誰もいない。ただ、晏長昀宛の手紙が卓の上に置いてあった。
晏長昀、あなたが想像する以上に私はあなたが好き。ずっと一緒にいたい。けれども、あなたは国の大事を成さなければならない人だわ。
大丈夫、私は記憶喪失を患っているから、きっとあなたのこともすぐに忘れられるわ。じゃあね。
晏長昀が手紙から顔を上げると、視線の先ににおい袋が吊るしてあった。小強子が作ったにおい袋だ。
見覚えのある三角の形状のにおい袋に薯蕷の花が刺繍されている。まさかと思い、晏長昀はいつも携帯している少女のにおい袋と比べてみた。
瓜二つだ。小強子、いや拂暁はあの時の少女だったのだ。
天青苑を走り出た晏長昀は馬に飛び乗った。
小強子の乗った馬車は昌文門を通り、山道へと入った。
しばらく進むと、馬車の前に六人の男が剣を構えて立ちはだかる。馭者は恐れおののいて逃げ出した。
突然、馬車の天井が破られた。男が大刀を振り回し、狭い車上で逃げ回る小強子を狙う。
男は雷豹だった。彼は小強子が秦家復興のための足手まといになると思い、彼女の命を狙ったのだ。
小強子が玉骨哨を吹く。雷豹が大刀を振りかぶった。
その刃に、飛来した剣が当たる。
「拂暁!!」
晏長昀だ。
雷豹が馬車を飛び出して馬の尻を蹴った。驚いた馬が走り出す。
「晏長昀、助けて…!!」
小強子が馬車の残骸にしがみつく。晏長昀は縄を投げて彼女の腰に絡め、馬上へ引き上げた。
馬を止める。小強子は大泣きして晏長昀の胸元をポカポカ殴った。
「もうちょっとで死ぬところだったわ!」
晏長昀は言葉にならず、小強子に口づけた。
やっと見つけた、もう離さない。
晏長昀は、佳陽との政略結婚が朱銀粉の捜査のためだったと小強子に明かした。
「早く言ってくれればよかったのに。ずっとつらかったのよ」
これからは、危険だからという理由で小強子を遠ざけることはしないと晏長昀は約束した。
「これで私の焦る気持ちが分かったでしょ?」
「怒っていないのか?」
「怒っていないわ。でも、捜査のためには私たちの仲は秘密にしておいたほうがいいわね」
四六時中一緒にいたいけれど仕方ない、と小強子は割り切る。
「我慢するんだから、ちょっとくらいご褒美がほしいな」
「どんな?」
小強子は唇を突き出した。
<第19集後編に続く>