『中央銀行 セントラルバンカーの経験した39年』を読んだ。
この本は、元日本銀行総裁である白川方明氏が、衝撃の総裁突如辞任から約5年が経過した2018年に執筆したものだ。
株式投資をしている私としては、金融マーケットの動きに直接関わる日銀の金融政策について理解を深めようと思って購入した。
本書は、日本銀行総裁という立場を経験した白川氏が、「中央銀行とは何か」、「当時の金融政策決定に至った背景」等々を、政策決定の当事者として振り返る700ページを超える大作だ。
白川氏は2008年〜2013年までの5年間、日本銀行の総裁を勤めた。
総裁就任当初の2008年といえば、リーマンショックによって金融市場に混乱が生じていた真っ只中である。
2011年には東日本大震災も起きた。
また、総裁就任期間中には2度に渡る政権交代(自民党から民主党へ、民主党から自民党へ)もあった。
そうした事も含め、白川氏は総裁就任の期間を「激動の5年間」と表現している。
さて、この700ページを超える大作を読んで、まず最初に私が感じたこと。
それは、漠然とした悲しみであった。
白川氏が総裁だった頃、私は中学生だったのではっきりとした記憶は無いが、当時はマスコミを始めとして経済評論家や国会議員からかなりの批判を受けていた事は覚えている。
その批判の大半は「金融緩和をもっとしろ」とか「デフレを放置するのか」といったものだった。
しかしこの本を読めば読むほど、白川氏が日本経済のため、日銀の使命を全うしようと懸命に戦う姿が想像できた。
当時は日銀に対する金融緩和実施の圧が凄まじいものだった。
それに対し、白川氏は金融緩和には否定的な立場だった。
その後、黒田元総裁がやったように、異次元の金融緩和を10年実施しても2年で2%の物価上昇は起きなかった。
※正確に言うと、2%の物価上昇は起きているが、悪性インフレによるものであり、経済成長による物価上昇ではない。
10年に渡る異次元の金融緩和は失敗に終わり、それどころか、残ったのは天文学的に膨れ上がった日銀のバランスシートと、誰もやりたがらない黒田元総裁の後釜だ。
10年の時を経た今、白川氏と黒田氏どちらが正しかったのかが証明されたように思う。
白川氏はこうなることを10年前に予期していたと思う。
さて、私が先程も申したように本著を読んで、漠然とした悲しみを抱いた理由は、「白川氏のような真面目で勤勉な人が、なぜこんなに批判されているのか」ということである。
本著を読み、白川氏が必死に日本経済を守ろうとしてることが伝わった。
その中でも一番印象に残っているのは、政府が日銀法改正を盾に、日銀にインフレーションターゲティングを迫ったとの内容である。
日銀の独立性を脅かすとんでもない行為である。
そのような政治的圧力と闘いながら、「2年で2%の物価上昇」との政府要求を「2%の物価上昇を、できるだけ早期に」との文言に落とし所をつけ、日銀法改正を避けたのは、まさに白川氏が日銀の独立性を守り抜いたということである。
白川氏が総裁を辞任して以降の日銀は、もはやこれまでの日銀とはまったく違う別の組織のように感じる。
近年、SNSを中心に「リフレ派」と呼ばれる積極的に財政出動すべきだという人が増えているが、私には彼らの意見が理解できない。
「リフレ派」が望んだ日本が、今の日本だ。
日銀の財務が悪化し、中央銀行の信認を低下させた。
円安が進んでも金利を引き上げることができなくなった。
輸入インフレで、給料は増えないが物価は上がった。
色々書いてきたが、本著は700ページにも及ぶ大作であり、白川氏が総裁になる前のことはもちろん、オーソドックスな金融論に基づいた金融政策についても書かれている。
この本が、後世に受け継がれることを切に願っている。



