これも10年程前の出来事。当時はニートの真っ最中、精神の均衡を保つ為、規則正しい生活を心掛けていた。
ある日の夜10時頃隣室にある姉が残していった青い表紙の本が読みたくなった。
『アンテナ』幼児誘拐を扱った田口ランディーの代表作。
約3時間で2/3程読んでしまった。通常読むのが遅いぼくにとっては異例の早さ。情景が非常に鮮やかに浮かび上がり、まるで映像を見ているようであった。
しかし夜更かしは禁物、何しろ規則正しい生活を心掛けないと精神の均衡がとれない有り様。
翌日9時頃より再開、11時過ぎ読了。集中して読み切っての感想は爽快感などではなく、重い気だるさだったのを覚えている。
コーヒーを淹れてテレビを点けると11時30分からお昼のニュース。
その日は大きな事件、事故が無かったらしく、トップニュースはその日時効を迎えるある幼児誘拐事件。
田口ランディが霊感のある女性であると知ったのはその後のこと。書く言うぼくは霊感は無い。しかし、あの時は確実に何かと繋がっていた。
約10年前の春の日、理由はおいといと、ぼくは、ジブラルタル海峡に居た。
スペインとモロッコを繋ぐフェリーの甲板の上、人影もまばらで、ただただ風に吹かれていたのだったが、ふと目をやるとモロッコ人とおぼしき青年が手招きしているではないか。
誘われるまま彼に近づくと、タバコを差し出された。
予想通り、彼はモロッコ人、ぼくは、日本人。彼はフランス語を少し、ぼくは、英語を少し。
それでも会話は弾んだ。
「タバコ」の効きが作用しているのに気が付いたのはしばらくしてから。宗教の話しをしてた時、彼が「お前達日本人はウッダだろ、ウッダ。」というので「ウッダ?」と 聞き返すと、「ウッダ、キリスト、所詮人間だろ。小さい、小さい。」と彼。
やには空を指差し、「あれを見ろ、あれがアラーだ!」
それから数時間、ひたすら空を見上げていた。その間も会話は弾んだが全く記憶に無い。
夕方が過ぎ、星が出始めたと思いきや、瞬く間に一面の星空となり、何本目かのタバコのおかげで瞳孔は開き切り、真っ白な夜空を見上げていた。
どのくらい時間が経ったであろう、気付けばひとりぼっち。
その時何かが空から降って来た。
それはゆっくりではあるがもの凄い衝撃だった。
それは「死」であった。