無題
「…切らした、買ってくるわ」
煙草の紙箱を隊服から取り出し、神経質そうに角を何度か指先で叩いた後ソファーを立った土方を、そういえば、と机の引き出しを探る仕草で銀時は立ち留まらせた。
「コレ」
銀時の指から放たれた箱を顔前で掴んで、慣れた手つきで一本くわえる。
「…空気みてぇだな」
メンソール煙草を歯噛みしながら眉を顰める土方が目に見えて不機嫌になった理由は銀時には明白だった。
もう顔も忘れた女が忘れていった花車なそ れを、すぐに灰皿に押し付けて無感動な表情を向けてくる。
自分を睨み付けている色の薄い瞳を感じて、銀時は咽を震わせ笑った。
隊服のシャツの背中に突然汗を意識した土方は、片手で顔を蔽った。
「…ムカつく」
銀時は覆う手を手首ごと掴んで、俯く土方の妙に艶のある瞼に唇を落とす。変な余裕が厭だと示唆するが、そんなものある筈はないのに。
女とは全く違う固い体にも、それでも囚われているのはきっと単純に、愛しい、と思うからなのだ。
「ごめんね、好きだよ」
何も悟らせまいと閉じた瞼が緩み、紅く染まるのを土方は止める事が出来なかった。
end.
煙草の紙箱を隊服から取り出し、神経質そうに角を何度か指先で叩いた後ソファーを立った土方を、そういえば、と机の引き出しを探る仕草で銀時は立ち留まらせた。
「コレ」
銀時の指から放たれた箱を顔前で掴んで、慣れた手つきで一本くわえる。
「…空気みてぇだな」
メンソール煙草を歯噛みしながら眉を顰める土方が目に見えて不機嫌になった理由は銀時には明白だった。
もう顔も忘れた女が忘れていった花車なそ れを、すぐに灰皿に押し付けて無感動な表情を向けてくる。
自分を睨み付けている色の薄い瞳を感じて、銀時は咽を震わせ笑った。
隊服のシャツの背中に突然汗を意識した土方は、片手で顔を蔽った。
「…ムカつく」
銀時は覆う手を手首ごと掴んで、俯く土方の妙に艶のある瞼に唇を落とす。変な余裕が厭だと示唆するが、そんなものある筈はないのに。
女とは全く違う固い体にも、それでも囚われているのはきっと単純に、愛しい、と思うからなのだ。
「ごめんね、好きだよ」
何も悟らせまいと閉じた瞼が緩み、紅く染まるのを土方は止める事が出来なかった。
end.
インパルス
自分と同じ様にポケットに手を突っ込んだまま歩く、数人の男達と共に廊下を通り過ぎる。沖田は横に居る人物の言葉に適当に相槌を打って、そっと気付かれない程度にある教室を垣間見た。
陽の当たる窓際の席に土方が突っ伏している。上の空といった様子の沖田を不可解に思いもせず、話を続ける男達。そのまま教室の前を立ち去ろうとも思ったが、ほぼ無意識に踵を返した。
「…悪ィ、やっぱ今日真面目に部活出るわ。また今度誘ってくれよ」
大して強く引き止められる事も無く、すぐに去っていった彼等を見送った後、沖田は土方の前の席に腰を掛けた。
「おい、土方さん、もう授業終わってますぜ。部活行かないんですかイ?」
起こすつもりの無い風に、そう囁く様に言って彼の艶のある黒髪に顔を近付けた。教室には数人生徒が残っており、そんな沖田を怪訝そうに見ていたが、やがて興味のなさそうに全員帰っていった。
放課後の教室は彼等二人に占領され、時折聞き慣れた部活中の喧騒が廊下に響く。
半ば引かれたカーテンからの風に、目の前の髪は揺らされた。と、同時に髪にしみ込んだ匂いを感じる。
──銀時だ。
これはあの人の匂いだ、と沖田は思うのだ。
そんな訳はないと知りながらも、少し前から僅かに生じていた衝動がここに来て遂に確信できるものへとなっていた。
その衝動の正体が一体何であるのか、沖田には理解できなかったけれども、目の前の男が酷く危険なものに思えて。
沖田を強く灼いたのだ。
end.
陽の当たる窓際の席に土方が突っ伏している。上の空といった様子の沖田を不可解に思いもせず、話を続ける男達。そのまま教室の前を立ち去ろうとも思ったが、ほぼ無意識に踵を返した。
「…悪ィ、やっぱ今日真面目に部活出るわ。また今度誘ってくれよ」
大して強く引き止められる事も無く、すぐに去っていった彼等を見送った後、沖田は土方の前の席に腰を掛けた。
「おい、土方さん、もう授業終わってますぜ。部活行かないんですかイ?」
起こすつもりの無い風に、そう囁く様に言って彼の艶のある黒髪に顔を近付けた。教室には数人生徒が残っており、そんな沖田を怪訝そうに見ていたが、やがて興味のなさそうに全員帰っていった。
放課後の教室は彼等二人に占領され、時折聞き慣れた部活中の喧騒が廊下に響く。
半ば引かれたカーテンからの風に、目の前の髪は揺らされた。と、同時に髪にしみ込んだ匂いを感じる。
──銀時だ。
これはあの人の匂いだ、と沖田は思うのだ。
そんな訳はないと知りながらも、少し前から僅かに生じていた衝動がここに来て遂に確信できるものへとなっていた。
その衝動の正体が一体何であるのか、沖田には理解できなかったけれども、目の前の男が酷く危険なものに思えて。
沖田を強く灼いたのだ。
end.

