私が初めて海外旅行に出たのが、70年代後半のヨーロッパです。今思い出しても、当時の羽田空港の出発ロビーから赤い絨毯を歩いて出国検査場に向かった光景を昨日のことのように思い出します。
 今でも旅行は大好きですが、あの時代特有の空気はすでに過去のもので、空港のスポットに並ぶ旅客機も随分様変わりしました。
 さて今回ご紹介する沢木耕太郎さんの「深夜特急」は、海外旅行が好きな方もそうでない方にもおすすめの力作です。全3巻、文庫版だと全6巻の大作ですが、息もつかせぬほどのおもしろさで、私も題名通り深夜の読書時間を利用して一気に読み終えました。
 私より少し前の70年代前半に沢木耕太郎さんはロンドンに旅立ちます。それも香港までを除き、陸路でユーラシア大陸を横断しヨーロッパを目指したのです。しかもヒッチハイクを中心に、いわゆるバックパッカースタイルで半年間かけてロンドンにたどり着きます。その途中でのエピソードはまさにインディージョーンズのごとく痛快でさわやかです。
 私自身、経済的に余裕のなかった学生時代に泊まった安宿や、鈍行列車のような南回りヨーロッパルートなどが最も記憶に残り、今では自分にとっての無形の財産となりました。社会人になってから泊まった豪華なホテルやファーストクラスの思い出は快適ではあったものの、記憶の中で次第に熟成されるようには思えません。
 私の青春時代と現代とでは、世界情勢は大きく変化し、かつては安全だった場所も危険地域に変わったケースもあります。バックパッカーとして発展途上国を移動するためには現地でのリスクについて十分な情報と準備は欠かせません。特に若い方には危険地域への旅行を避けることと、各国の事情を十分調査してから旅立つことを願ってやみません。
 「深夜特急」はそうしたリスクに配慮せずとも、自宅に居ながらにして旅の醍醐味と青春の息吹を読者に感じさせてくれる名著だと思います。



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