会社における成果主義などがささやかれている今日、結果を求めないことを決断するには少々勇気がいります。結果を求めないというのは、結果がどうでもいいということではありません。私がお伝えしたいのは、結果にとらわれて人生の機微や広がりを満喫できないことは空しいということです。精神科医の大平健先生の書籍には、何カ国を旅したかを自慢する女性の話が出てきます。訪問した国の数を増やす事が目標の人に、旅の豊かさを享受できるのでしょうか。
 私は50代後半になってつくづく感じるのは、人生の豊かさや喜びは日常の何でもないところにいくらでも潜んでいるということです。それに対して自分がどうかわるかで、その対象の価値はいくらでも広がり輝きを増します。結果を求める人というのは、目標とする対象に絶対的な価値があると錯覚しているのではないでしょうか。地位や資産にめぐまれていない人でも幸福感を感じている人はたくさんいます。逆もまたしかりです。
 対象に価値をもとめるのではなく、対象に自分がどうかかわるかで、人生はいくらでも豊かにすることができると思います。


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