実は大仁田さんは後楽園ホールの客席の多い南側から入場するはずだった。俺がそれを知ったのは選手入場が始まる直前で大仁田さんもその時に知った模様。「あぁ、俺がバックステージに下がる時、たくさんの大仁田信者の人達が旗を持ってスタンバイし始めてたよな…ガックリするだろうな。一応、大仁田さんにそれとなく言ってみるか」と思っていたら切り出す前に、大仁田さん自ら「いつも通りにいこう」と。
南側に座っていた方には申し訳ないが「それがいい」と思った。沢山の旗で出来た行列のなかを歩く大将…「最高の画」と思ったから。
そしてワイルドシングが聞こえてきた。大勢のファンに、もみくちゃにされる大仁田さんの脇に入りベルト部分をしっかり握り転倒させることなく無事誘導。
しっかりと目に焼きつけておこう。そう思いながら試合を見ていた。試合中、色々な想いが脳裏にフラッシュバックしながら見ていたからかスローモーションを見ているようだった。
それにしても、あの試合の熱気は本当に凄かった。これが引退試合?と何度も思った。
俺がイメージする引退試合らしさ?みたいな…なんて言えばいいのか?しんみりとしたもの?が無いし、今日でリングを降りるってジョークだろ?と思えたりもした。否、嘘だと言って欲しいと思っている俺が居たのかな?大仁田さんの身体がボロボロなのは解ってはいるが…
藤田選手やアメリカで行った電流爆破マッチの対戦相手、マット・トレモント選手などを新たな敵として…とも思った。けど、この日のもう1人のMVPは論外選手だと思う。俺に言われても嬉しくないだろが。
合計7発ものサンダーファイヤーパワーボムを受ける論外選手を見ながら「なにやってんだよ俺?」と思った。覚えてる人も少ないだろうが世界で1番最初にTFPBを食らったのは俺。但しそれは旗揚げ戦を前に行われた公開練習の場だけど。思い出しても大仁田さんとの対戦経験は一度きり(バトレンジャーになった年の沖縄での大仁田厚・ターザン後藤VS江崎英治・中川浩二・俺の変則タッグ)だし、敵対する側に回らなくても試合で受けることは可能な訳だが。食らっておきたかった。食らっておくべき。だけどもう、その機会は無い。元来やらずに後悔するのは嫌いな俺。なのにやらかしてる。どうにも出来ないこの土壇場で。ここで気付く俺も俺だが悔いても仕方ないし、これを最高の戒めとしよう。「なにやってんだよ俺?」そう思うことの無いよう、この道を進もう。そう決めた。そう思わせてくれた意味でも論外選手には感謝。