プロット、構成ともにかなりトリッキーな作品である。
正直にいって「傑作」と呼ぶ気にはなれないのだが、これからの創作に期待を抱かせる要素がそこかしこにちりばめられているような気がする。
その辺は、読み手の趣味に大きく左右されるのではあろうが。
で、読み終えてしばらくしてからじわじわと意識の表層に浮かび上がってきたのが、作中に見えるオマージュの数々である。こちらが勝手に投影しているだけかもしれないが。
■まずは、主人公である法螺右衛門こと堀河吉右衛門の造形である。「鼻は、ほろりと長く、垂れた魔羅のようにも見える。それで小便でもしそうな鼻であった」
顔のパーツが異常に長い異相といえば、「顎十郎」であろう。顎が異常に長い上に、目鼻がすべて顔の上部に集まっている。巨大なへちまのような面相の武士である。こちらは大分に強面かつ剣呑で、「顎」という言葉が耳に入っただけで相手を斬ったり、半殺しにするようなアブナイ男である。
しかし、頭脳明晰で剣の腕が立つ。町奉行所が持てあます難事件を、快刀乱麻解決して見せる。
こどもには優しい所も法螺右衛門と共通している。
■さらには「法螺右衛門」というあだ名である。法螺衛門は江戸の市井にありながら「からくり屋敷」と呼ばれる屋敷に住まいし、寺子屋を開きながら奇天烈なからくりをあれこれと創り出している。
これは「ドラえもん」へのオマージュでしょう。テイスト的にはむしろ「キテレツ大百科」の世界ではあるが。
なにしろ、法螺右衛門は饅頭が大の好物という設定になっている。ドラ焼きのなぞりだわねえ。
■本作には鬼平こと火付盗賊改方長谷川平蔵の若き日の姿、「本所の銕」こと長谷川銕三郎が登場する。これはもう「鬼平犯科帳」の人物造形を忠実に再現したような設定なのだが、主人公の吉右衛門という名前は鬼平を演じた中村吉右衛門に捧げられているとみてよいであろう。
■これはオマージュといってよいのかどうか、登場人物たちが上げる断末魔の悲鳴にも特徴がある。
「おでべっぱあっ」
「あごでげばっ」
「おべぼべっ」
など、多種多様である。
「おっぴょっぴょーっ」が出るにおよんでは、もはや自由の極致である。
これはやっぱり、北斗の拳へのリスペクトではないか。
■そして法螺右衛門の飼い猫「悟空」。このプロットの主人公にぴったり寄り添う猫とくれば、あの名作SFしかないでしょう。ひとつわからないのは、なぜ名前が悟空なのかである。
なにか理由があるのだろうが、いまのところ謎である。
本日のところは、宿題ということにしておこう。