本のネーミングっておもしろい。


タイトルひとつで売れ行きが大きく左右されるらしい。

確かに私もタイトルが気に入って買うことがままある。


今までで一番印象に残っているタイトルといえば

コナン・ドイルが書いた 『緋色の研究』 だろうか。


知る人ぞ知る シャーロック・ホームズ 第一作目。


初めて読んだのは、小学生の高学年期だったと思う。

少し背伸びしたくて、オトナの本棚を見上げていた頃、

興味をそそられたのが この 『緋色の研究』 だった。


まず、 「緋色」 というのが カッコいい。

それまで聞いたこともない名前の色が

オトナっぽくてミステリアスな匂いがする。

そのうえ、その色を 「研究」 しているとは!

とにかくカッコよくて、貪るように読んだ。


サーチ


『緋色の研究』 の原題は "A Study in Scarlet"。

この英題を新潮社が 『緋色の研究』 と訳した。

確かに study には 「研究」 という意味もあるけど、

原文を根拠にそれは誤訳であると言う人も多い。


and so have missed the finest study I ever came across:

a study in scarlet, eh? Why shouldn't we use a little art jargon.

There's the scarlet thread of murder running through

the colourless skein of life, and our duty is to unravel it,

and isolate it, and expose every inch of it.


a study in scarlet は art jargon だと言っている。

「art jargon」 を日本語に訳すと 「美術用語」、

つまり、"A Study in Scarlet" は美術用語なのだ。


美術の分野で使われている 「study」 は

「練習のために描いた絵」 という意味らしいので、

「緋色の試作品(or習作) と訳したほうが正確だ。

(実際に河出書房版は 『緋色の習作』 となっている)


だけど、初めからこんなタイトルで売り出してたら

ここまでの人気には ならなかったかもしれない。


これが日本語訳の妙というのだろう。


最近は、書籍にしても映画にしても

外国語の元題そのままっていうのが多いけど

日本人の好みを考えて大胆に訳してほしいな。


---補足


ホームズの時代の絵画作品に、タイトルとして

「A Study in ~(色)」 とつけたものが複数あるので

「緋色の研究」 という訳でもよいという意見もあります。