◆ゆるキャラでなくタレント

くまモン人気の秘密には諸説あるが、いろいろな要素が重なって爆発したようだ。全国の自治体や企業が熊本県の関係機関に視察・取材しても、その理由がなかなかつかめないでいるわけもそこにある。

関係者の話で共通しているのは「普遍性」だ。言葉を換えれば特徴がない。イメージキャラクターといえば、一目みて、何をPRしたいのかがわかる外見とネーミングにするのが常識だが、くまモンからは新幹線や熊本は連想できない。

熊本県はまず「くまモン」自身をタレントのように売り込んだ。人気が出れば自然と熊本に注目が集まるという戦略だ。前職の新幹線元年戦略推進室長から現職まで、「くまモンと育った」という県大阪事務所の本坂道所長は「普遍性を持つために、どんな場に出ても違和感がない。赤、黒、白の3色しか使わず幼児でも書きやすい単純なキャラは、場所や相手を選ばず好かれる」とメリットを実感してきた。

派手な複数のゆるキャラと一緒に壇上に立つと、黒が基調で特徴のない風体は最も目立つ。丸みを帯びた顔立ちが癒やしを与え、おとぼけ顔だが機敏で幼稚な行動が受けているようだ。

◆熊本生まれの関西育ち

一方で「特徴がないだけにいろいろやれるが、やらないとすぐに忘れ去られる」(本坂所長)だけに、あらゆる媒体を通した情報発信と、くまモン自身の努力で補った。「気になる存在」であり続けることに徹した。

九州新幹線が大阪-鹿児島中央を直通運転する前に、くまモンを大阪に出張させ、関西戦略を展開。熊本をPRして通過されるのを防ぐ狙いだ。

「大阪もなかなかええ城もってますやん。熊本城は、三名城に必ず入ります。ま、自慢とかでは、ないんですけど」
 関西の笑いのツボをとらえた50種のポスターを関西地区に貼り、くまモンの認知度を上げた。「くまモンが失踪した」との会見を知事が開いたりして話題作り。ツイッターや公式ホームページなどを駆使して、くまモンの出没を告知し、気になる存在=くまモンにすぐにあえるようにした。

出会ったら、くまモンが心をつかむ。100メートルを11秒台で走り、ダンサー顔負けの機敏な動きで見学者周辺を走り回る。さらに「やんちゃで好奇心いっぱいの男の子」(公式プロフィール)だけに、記者会見のひな壇で、隣の人を小突いたり、イベント中にステージの端に行って居眠りしたり、イタズラし放題。目が離せない。

また、熊本県は「くまモンで儲けてもらい、熊本が元気になればいい」と、くまモンのデザイナーから著作権を買い取り、商標使用を無料化。土産品やグッズの商品化が進んだ。全国のゆるキャラでは、滋賀県彦根市の「ひこにゃん」、奈良県の「せんとくん」が販売額の3パーセントを商標使用料として徴収するケースが多い。

人気を後押ししているのがファンの力だ。江崎グリコ(大阪市)では、ファンの女性社員が社内で掛け合い、パッケージ前面にくまモンが描かれた「ミルクココアポッキー」を発売した。

3月17日にグランメッセ熊本(熊本県益城町)で開かれた誕生祭。一般来場者がステージ場でくまモンに愛を叫ぶというイベントでは、女性が「職場にも言ってないけど私、妊娠しました。大好きなくまモンに告白」というと、会場は「おめでとう」の大合唱。東京から駆けつけたという別の女性は、純白のウエディングドレスで登壇し「(男性が結婚できる18歳まで)15年待ってる」とくまモンに抱きついた。

くまモン衣装を着て会場内のPRブースにいた自営業、奥村賢さん(42)=熊本市中央区=に人気の秘密を尋ねると「くまモンを通して一般の人も県庁職員も、企業も、いろんなアイデアを出して楽しんでいるので、サプライズの連続だ。くまモンで楽しむ、という共通項がこれまでのあらゆる枠組みを打ち破り、創造が生まれる期待感があるから人が集まる」と分析。「乗り遅れないように私もこんな格好で初めて人前に出た」。熊本で80年以上続く老舗料亭の主でもある。

◇くまモン ミッキーになれるか

くまモン人気をブームに終わらせない仕掛け作りが課題だ。関係者が「目標はミッキーマウス」と口をそろえる理由はそこにある。どうしたら肩を並べられるのか-。

人気が拡大するにつれ、体制的にも県庁職員では手に負えなくなる可能性も出てくる。くまモンも使用料を徴収して、その収入を元手に人材を増やし、第3セクターなどの会社が、熊本のピーアールが主目的という方向性を維持しつつ、マネージメントしていくのが現実的かもしれない。

ただ、商標使用料の無料化が人気拡大の大きな要因の一つとなっているだけに、決断するのは難しそうだ。

また、ファンの間で要望が強いのが、くまモンの家族や友達の登場だ。ミッキーも友人が多い。くまモン以外には、熊本でしか会えないともなれば、熊本に足を運んでもらうきっかけになるかもしれない。

くまモンのダンスの技術もさらに磨かねばならない。熊本県の立川勝・前福岡事務所長(4月1日付で本庁に異動)は「関係者はみな、人気がある今こそ、次のステップを考えなければならないと思っている」と話す。ブームに終わらせない仕掛けとなるくまモン戦略の次の一手が注目される。