乱れた息を少しずつ整え、表情を和らげた羽生がリンク中央で演技の余韻に浸った。冒頭の4回転ジャンプから、長い手足を最大限に駆使したスピンにステップと、最後までほぼ完璧な演技だった。非公式ながら自らの世界歴代最高得点を上回る97.68点。オーサー・コーチとハイタッチを交わし、「すごくうれしい」と声が弾んだ。

成長著しい今季は、グランプリ(GP)のSPで2戦連続世界歴代最高得点をマーク。18歳は慢心することなく、「どうやって自分の演技を超えるか」をテーマに高みを目指した。好調の4回転ジャンプをさらに安定させ、ステップのレベルアップにも取り組み、約2週間前のファイナルでつまずいたSPで再び高得点につなげた。

この間、体調は好不調の波に襲われてきた。ファイナル直後は突然の体調不良で、2度のおう吐で歩くのもままならず、エキシビションを欠場した。帰国後も数日間は練習が行えず、体重とともに筋力が落ちたという。

急上昇する人気と高まる周囲の期待…。医師からは「ストレスが原因」と指摘された。それでも「プレッシャーがあるのは、期待されているからこそ。そのことをエネルギーに変えたい」と逃げなかった。

この日も、演技直前の6分間練習の状態が良くなかったことで、緊張感にさいなまれたが、それでも練習でミスが減ってきているという自信で乗り越えた。初の日本一へ-。追い込んできた肉体と精神をもう一度鼓舞する。