水素原子には原子核に陽子が1個だけ存在しその周囲には電子が1個存在している。そして陽子と電子の重量比は約2,000対1だからほとんど陽子の原子核は動かずにその周囲を光速に近い速度で電子が運動している。そういう状況になっているのが水素原子という物質だ。

 

負の電子が正の原子核に落ち込まないのは電子が非常に狭い空間を高速で運動しているためだ。原子核が電子を取り込めないのだ。それほど激しい運動をしているのが電子の特性の一つでもある。ただし電子は一定の範囲に閉じ込められている。それは電気力の強さでもある。この2つの相反する力によって水素原子は驚異的な安定性を維持しているのだ。

 

ところでヘリウム原子の原子核には2個の陽子と2個の中性子があるが、この原子核も水素原子と同様に非常に安定だ。何故かヘリウム原子核の周囲には2個の電子が存在して原子としては電気的に中性になっている。水素原子と同じようにここでも重い原子核とその周囲を光速に近い速度で運動する2個電子のお蔭でそのまま安定に存在することになる。

 

ただここで困ったことが起こる。非常に狭い原子核に2個の陽子があるため正の電気同士がとんでもなく反発してしまうのだ。当然その結果としてこの原子核はすぐさま崩壊してしまう他ないのだ。この問題には昔の多くの物理学者が困惑していた。そこで登場するのが日本の理論物理学者の湯川秀樹博士だ。このヘリウム原子核の安定性を見事に説明してしまった。それがπ中間子説だ。これで湯川博士は日本人で初めてノーベル物理学賞を受賞することになる。

 

湯川博士の説はこうだ。原子核内の陽子と中性子は実はπ中間子という素粒子のやり取りをすることでこの陽子と中性子を強く結びつけているという説を唱えたのだ。当時としては画期的な説で世界中の物理学者を脅かせてしまった。こうしてヘリウム原子の安定性も物理学的にしっかり説明できることになったのだ。そしてこの説が広く広まったお蔭で世界中からひょっとして宇宙にはその他にも素粒子が沢山あるのではないかと考えられるようになり、実際様々な素粒子が発見されることになる。その先鞭をつけたπ中間子説でもあったのだ。