本日不快指数80パーセント。
何時降り出してもおかしくない空模様。
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今日の相棒はT氏だ。
彼は若い社員達から疎まれている。
それは仕方の無い事だ。
我が社の大口取引先の退職者と云うことで
そこは大人の事情
六十過ぎの彼を雇い入れた会社の思惑も分らない訳ではないが
給料泥棒も同然の彼の働きぶりを目の当たりにしては
誰だって彼の事を快く思うはずがない。
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客先へ向かう車中のT氏は饒舌だ。
自らの卑近な話から政治経済の話題まで
熱く語ってくれる。
しかし、それは長く続かない。
助手席のT氏は直ぐに静かになった。
私は運転をしながらチラリと横目で彼を見る。
眼鏡の奥の眼は閉じられている。
彼の鼻孔から漏れ出てくる呼吸音から察するならば
既に深い眠りの森の住人となっていることは確かだ。
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「で、どうなの?Tさんは」
「事務所ではいつも居眠りばかりしていますよ
ほとんど仕事なんかしやしない
って云うか、やってもらう仕事もあまりないんですけど・・・」
「ふーん、結局、N社から厄介なお荷物を押しつけられただけか」
「明日、営業に出るんでしょ?、連れてってくれませんか、Tさんを・・・」
「えっ、俺が?」
「お願いしますよ、ここに居ても、居眠りして、昼飯食って
また居眠りして、起きたかなと思ったら新聞読んで
そしてまた居眠りして・・・」
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「Tさん、もうすぐ着きますよ」
「・・・おっと、いつの間にか眠り込んでたな
おや、雨が降っているじゃないか」
「ええ、さっき降り出しましたね」
「しまったな」
「どうかしたんですか?」
「いや、傘を持ってこなかった」
「大丈夫ですよ、今から行くところは濡れずに入れますから」
「いや、そうじゃなくて、帰りの事だ」
「会社から帰るとき?」
「そうだ」
「・・・」
今はまだ午前十時半、終業の時間まではたっぷりある。
しかし、T氏の頭の中の時計は
午後四時四十五分を既に回っているらしい。