「お客様、このコースターをお下げしなくてはいけませんか?」

と言って亜希子は僕の目を見つめた。

「いえ、このままここに置いておいてください。」
「ありがとうございます、鈴原様。毛布をおかけ致しますか?」
「いえ、時差ボケにならないために眠らないつもりですから。」

すると亜希子は小さな声で言った。

「少ししたら、私に飲み物を頼んでください。」

そして、右目を少しだけウインクさせて歩いて行った

それから20分ほどすると、亜希子はお客様の様子を見ながら歩いて来た。
僕の近くに来たので、

「すみませんが薬を飲みたいので、お水を1杯頂けますか?」
「お水でございますね、ただいまお持ちします。」

亜希子はグラスに入った水を一緒に持って来たコースターの上に置いた。
コースターの裏には

鈴原さんの宿泊先を教えてください。

と書いてあった。
僕はその下に、同じホテルです。
と書いた。
亜希子はグラスとコースターを取りに来た。
コースターの裏を見ると僕の方を向いて、目を閉じて
ゆっくりと開いた。

アムステルダムのスキポール空港まで2時間となった時、朝食が配られた。
亜希子が朝食のオレンジジュースの下に置いたコースターの裏には

スキポール空港到着予定時刻は午後5時半です。
鈴原さんのお部屋に午後9時に電話していいですか?
OKなら、コースターを左胸の内ポケットにしまってください。

亜希子は少し離れた所から、僕がコースターを内ポケットにしまうのを確認すると、微笑みながら、今度は左目で少しウインクした。

スキポール空港からタクシーでノボテル アムステルダム シティに行った。
チェックインした後、シャワーを浴びて1階のレストランで夕食を食べた。
部屋に戻り冷蔵庫の水を飲みながら寛いでいると、
電話が鳴った。
亜希子だった。

「鈴原さんですか?」
「亜希子さんですね?」
「亜希子と呼んでください。鈴原さん、私・・・
ワンナイトラブにはしたくありません。」
「明日の日曜日は何か予定が入っていますか?」
「何もありません。」
「明日の朝、このホテルの1階のレストランで
7時半から朝食をご一緒してもらえませんか?」
「はい、喜んで。ホテルのロビーでお待ちしています。
鈴原さんのお名前が知りたいんですが・・・」
「ユウキです。優しい雨の樹木の樹です。」
「おやすみなさい、ユウキさん。明日の朝を楽しみにしています。」
「おやすみなさい、亜希子さん。僕も楽しみにしています。」
「亜希子だけで言い直して。」
「おやすみなさい、亜希子。」 
「ありがとう。ユウキ。大好きよ。」


つづく