哀しみを
鎮めながら
生活している。

否、哀しみは
どうこうできるものではない。

別のことに、
例えば仕事や子供のことに
目を向けることで
意識を哀しみから
一時的に逸らしていると言う方が
正しいかもしれない。


騙し、騙し
というところか。




ところが不意に、
覆い隠していた哀しみが
自分の中で露わにされてしまうことが
生活に潜んでいる。



なかなかの恐怖だ。




職場に保険屋さんが
キャンペーンとやらで来ていた。

「豪華賞品が当たるかも知れないから
応募券に記入してください」

これを話のきっかけにするのは知っている。

既に加入している保険会社なので
警戒心なく
勧められるままに記名を始めた。

「年に一度のご確認ですので
書きながら耳を貸してください。
保険の受取人は、○○○○様、」




愛する夫の名前、心地良い響き…




しかし即座にこう言わねばならない、






「あぁ…変更ですね…」




それ以外は、職場の人もいたし、
ここでは必要ない情報だから
言わなかった。



保険屋さんは多分、
私の年齢からして
離婚したのだろうと思ったかも知れない。



もちろん、そこには触れず、
何事もないように
変更手続きに移った。





夫の名前から
再び父親の名前に書き換えられた。





15年前、結婚を期に
夫の名前に書き換えた。



夫と夫婦になれた幸せを
名前の書き換えですら
感じることができた。




その幸せが、
ずーっと続くと




信じて疑わなかった。



そして今日、



全く逆のことを



名前の書き換えで




思い知らされる…







なんてこった。






お父さん、





大切なお父さんの名前が







また ひとつ









この世界から







消えてしまったよ…