都心のひっそりとした美術館に

古い肖像画が展示されていた。
 

厳格な表情の
男性が描かれた肖像画だった。



その目は、どこから見ても
目線が合っている感覚にさせる
不思議な絵だった。
 

その絵には
夜肖像画に睨まれるという
噂があった。



美術館の
新人館員のMさん。
 

この噂に興味を持った。
 

自ら夜間の警備を申し出て
真相を確かめることにした。



初めての夜間警備の夜。
 

彼女は肖像画の前でじっと立ち
その目を観察しました。



しかし初日は
何も起こらなかった。
 

肖像画は、厳格な表情のままだった。
 

数日後、再び夜の警備を申し出た。
その夜に異変は起こった―



肖像画の前でじっと絵を見る。
 

すると突然、絵の目玉が動きだした。
ギロリと彼女を睨みつけてくる。



途端に、Mさんは金縛りにあった。
体が思うように動かない。
 

肖像画の男はニヤリと笑っている。


そしてMさんの意志に反して
絵の方に歩き始めた。
 

体の自由が効かない。
一歩一歩絵に向かって近づいていった。


 

唯一動く目で、絵の方に視線を移す。
肖像画が壁から浮き出てきているようだった。
 

(絵の中に引きずり込まれる!?)
 

何故か、そう直観した。


 

必死に抵抗を続ける。
その時、右のポケットが急に熱くなった。
 

そこには祖母からもらった
お守りが入っていた。
 

その瞬間に、ふっと体の自由が戻ってきた。



絵の方に目を向けると肖像画は

怒りに満ちた表情に変わっていた。
 

これは危険だ。
 

彼女は肖像画を壁から外し

美術館の駐車場で
絵を燃やしてしまった。



翌朝、出勤した上司に報告した。
 

起こったことと、
絵を燃やしたことを伝えた。
 

怒られると思い身構えていた。
 

しかし、上司の反応は穏やかで
「分かった」
と素気ない返答だった―



きっと上司は

『何か』を知っているのだろう。
 

Mさんはあえて、
追求することはしなかった。
 

その日を境に、
美術館の噂は聞かなくなった。

 

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