もうすぐ定年退職する独身のMさん。
母が他界して実家が空になったので
退職後に実家に戻ることにした。



相続やらなんやら、
整理することは多々あったが、

引っ越してから
のんびりやればいいやと、
気軽に構えていた。



退職日の翌日—
早速荷物をまとめて、
実家に引越した。

幼少から暮らしていた地元。
都会の職場とは違って
のどかなで良いところだった。



地元に移って、
一週間程たった頃。


近所を散歩している時に、
幼馴染のKとばったり出くわした。



Kとは実家ぐるみで仲が良く、
小中高と一緒の腐れ縁だった。
Kも定年を機に実家に戻っていたらしい。


二人とも
時間はたっぷりあった。
もともと共通の趣味だった
将棋を指すようになった。



いつも午後に
KさんがMさんの家に来る。


縁側でお茶を飲みながら
将棋を指す。

 

そして夜に帰っていく。
それが日課になっていた。


たまにはKの家で…

なんて提案するが、Kに渋られ、
K宅に行くことはなかった。


新聞やニュースのことを話しながら

Kと指す将棋がたまらなく幸せだった。

 

 


ある日の午前中、
Mさんは近所の商店街に買い物にでかけた。

そこで、近所のおばさんと会った。
おばさんには母共々良くしてもらっていた。

 

たわいのない話をしていたら、
気になることを言われた。

 

「いつも縁側で一人で将棋やってるよね」
 

 

 

あまり高くはない
垣根の上から見えていたらしい



 

Kが…と言い返そうとすると、
そうそう、と食い気味におばさんが被せてきた。

 

「K君、あなたのお母さんが 
 亡くなる少し前に、バイク事故でね…」



おばさんと分かれてすぐ、
Kの実家に行った。

 

親父さんが出迎えてくれた。
奥に通されると、Kの仏壇があった。



仏壇に手を合わせる。
母が入院中で、Kの訃報が届かなかったようだ。
親父さんにはKとのことは言わないでおいた。


Mさんは今も二人で将棋を指している。
せっかくの第二の人生、
仲良い友人とゆっくり過ごすのだそうだ。


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