週末に友だちの結婚式を控えたDさん。
会社の帰りに髪を切ろうと思い立った。
時刻は19時過ぎ。
やってるところはないか…



すると、道の反対側に床屋があった。
ダメもとで駆け込んでみる。
なんと、特別にカットしてくれるとのことだ。
 

席に通される。
 

店内には独特の匂いが漂っている。
入口手前の席に通された。



結婚式に参列するから短くしたい、と雑な注文をする。
「かしこまりました。」
店主は短く答えた。
 

カットはすぐに終わった。
髪の毛を流すためシャンプー台へ誘導される。



台に横になり、顔にタオルをかけられる。
「少々お待ちください」
と店主は奥の扉の向こうへ消えていった。



すぐに扉が開いて店主が戻ってくる。
ただ、何か別の気配も一緒に戻ってきた。
 

強い獣臭がした。
 

その気配は、先ほど髪を切った
入口側の席へ向かっていったようだ。



店主がシャンプーを始める。
私は気配が気になって店主に聞いてみた。
 

「犬...ですか?」
 

「はい、大型犬をね」
 

特段犬嫌いなわけではない。
だが、客がいるのに…

と思ったことは言わないでおいた。



シャンプーが終わって、
店主は犬に向かって部屋に戻るように声をかけた。
 

犬が扉の向こう側へ
戻っていく気配がした。


顔にかかったタオルの
わずかなすき間から、どんな犬なのか覗いてみた。
 

全身の毛穴が一斉に開く―
 

あれは...犬なんかじゃない



それは全身毛のない、4足歩行の生き物だった。
 

そしてDさんには、

それが『人間』にしか見えなかった...



「タオル取りますね」という店主の声とほぼ同時に、
『なにか』は扉の奥へ消えて見えなくなった。
 

カット台へ誘導される。
 

フラフラになりながら席へ移動して着席。
鳥肌が止まらない。



ふと、床が視界に入った。
さっき切った髪の毛が掃除されている...
 

それに気が付いた瞬間、
「急用を思い出した」
とか適当なことを言って、
お金を払いすぐに店をでた。



「カット台に戻ったら床がすこしぬめっててさ。
 『何か』は床の髪の毛を食べてたと思うんだ。」
 

結婚式の二次会で、Dさんはそんな話をしてくれた。

 

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