田植後、田んぼの草はあれよあれよという間に大きくなり、広がっていきました。田んぼの除草は、ジャンボタニシが草を食べてくれると見込んでいました。(実際にジャンボタニシをうまく活用している田んぼでは、田植え後に一度も田んぼに入ることなく、タニシが綺麗に草を食べてくれます。)ところが、僕の借りている田んぼは耕作放棄地でタニシが全くいない場所であり、外からタニシを入れたところでタニシの数が少なく、草の生える勢いが圧倒的に勝ってしまいました。「どうにかしないといけない。」と思いつつも、広大な田んぼを前にどうしようもなく、ただ立ち尽くすしかありませんでした。草がボーボーの耕作放棄地から開墾して、なんとか田植えまでこぎつけた田んぼでした。相当な時間と労力とお金をかけてきました。もしかしたら、自然農法では除草をしなくてもよいのではないかとインターネットや家にある田んぼに関する本をかたっぱしに集めて調べました。しかし、自然農法でも除草は必要であり、除草をしないとお米の収穫量が落ちるという事が分かりました。さらに、除草剤を使わない田んぼにおいての雑草対策は、田植え前や草がまだ小さいうちに対処しないといけないということが分りました。すでに僕の田んぼは草が大きくなっており、時すでに遅しでした。
 それでも、今までの労力をかけてきた分、このまま指をくわえて待つということはどうしても出来ませんでした。そこで、無農薬で田んぼをしている方から情報を得て、田んぼの条間(稲と稲の間)の草を刈り取ることができる草刈り機のアタッチメントがある事を知り、購入して使ってみました。しかし、草刈り機の刃を水中に入れるため、重たく、少しでも気を抜くと反動で稲を刈ってしまいます。それでもなんとか1枚目の田んぼの条間の草刈りは終わりました。(合計で3枚田んぼがあります。)そして、稲の株元は、草刈り機では刈り取れないため、手で抜いていきました。
 「ゴォオオオオー!!!!」佐賀県はすでに梅雨入りしており、大雨が降る中、一人で地道に草を抜いていきました。シャツもズボンもパンツもずぶ濡れです。6月に入ってましたが、服が濡れると寒くなります。さらに田んぼは畑と異なり、地面がぬかるんでいるため、移動も思うように動けません。周りを見渡すと広大な田んぼが広がっています。心が折れそうになりながらも、1枚目の田んぼを終わらせました。勢いをつけて、2枚目、3枚目と進もうと思いました。ところが、2枚目の田んぼは1枚目の田んぼの2倍はあるであろう広い田んぼです。そして、草が生い茂っており、田んぼ一面に「コナギ」という草が生えていました。一人でなんとかしようと思いましたが、草の量と広さは一人で手に負えるものではありませんでした。そこでInstagramでボランティアの方を募集して来てもらうことにしました。ありがたいことに、多くの方に来ていただき手伝っていただきました。それでも除草は終わりません。田んぼ用の長靴があり、最初はその靴を履いていたのですが、裸足で入った方が楽だということが分かり、裸足で田んぼに入りました。また、ずっと中腰の状態での除草は腰や背中に負担がかかるため、四つん這いの状態で除草を続けました。当然服も体も泥だらけになります。朝起きると体全身が重たく、疲労は蓄積していきました。草を抜いても抜いても少しづつしか進まない現状に「これ、いつまで続くんやろか。」という気持ちになっていきました。心と体が疲弊していき、田んぼへ行くことが辛くなっていきました。一番心が苦しかったのは、田んぼ以外にも複数の畑もあり、田んぼにほぼすべての時間と労力を注力していたため、種からお世話したお野菜や畑が荒れていったことでした。
 2年目を勝負の年と意気込んで、寝てるとき以外は農業の事を考えていました。そして、自分の理想を想い描き、計画を立て、ほとんど毎日田んぼと畑の様子を見に行っていました。やる気に満ちていて、楽しくてしょうがなかった農業でした。そんな農業がいつしか楽しめなくなり、田んぼや畑から次第に足が遠のいていきました。そして、家にひきこもりがちになりました。家にいて休まっているはずなのに、田んぼと畑の事が常に頭の中にあり、罪悪感が募りました。家にいる間も田んぼや畑の草は、生えていきます。
 田んぼの草は、これでもかと生い茂っていました。草を抜いたはずの田んぼからも新たに草が生えていました。もうどうすることも出来ず、ただひたすら手を合わせて祈り続けました。田んぼに行っては、「山の神様、川の神様、水の神様、田んぼの神様、すべての生き物、自然の恵み、菌ちゃんありがとうございます。多くの学びをありがとうございます。」と一人でぶつぶつと唱え続けました。8月22日でした。田んぼに行くと、葉っぱの中から穂が出てきていました。涙がぽろぽろと溢れ出てきて、声をあげて泣きました。     
(次回へ続く・・・)    
【百姓小僧 宮野雅文】