開戦。
なんとも言えぬ空気感でピリピリしている。
彼が口を開いた。
わかるよ、冬ちゃんが言われたこと。
あれでしょ?あの緑色の服のおばさんに、オレが怒鳴られた話でしょ?
目をそらしたまま、話を聞く。
かばんがあちこちで倒れてたから、直して歩いてただけだって。
普通、人のかばんの中身…触る?
目は合わせない。
確かにちょっと怪しくも見えちゃう動きだったのかもしれないけどさ、あんな言い方する?オレ怒鳴られたんだよ?
うん、聞こえてたよ。
少し驚いた様子だった。
聞こえてたんだ…
でもさ、オレだったら「どうかしましたか?」とか聞くよ、大人だから。
あんな「人の物触ったらダメだよ!」とか言う?
あー、私ナメられてるなぁ。
いつもニコニコ、彼の話を聞く優しい子、だもんなぁ。
こう見えて、旦那さんと調停しただ、裁判しただ、子供2人女手ひとつで育てて、仕事で納得いかないことがあったら労基に電話するオンナだよ?
んー、私も言うかも。
だって人のかばんの中身に触るって、おかしいもん。
えー、だったらもう有り得ない。
オレとは合わないね。
珍しくヒートアップしてまくし立ててくる。
そんなさ、ずるいじゃん。オレは何もやましいことはしてない、って言ってるのに、冬ちゃんは見てもないことを、おばさん達にあーだこーだ言われてそんな不機嫌な顔してるんでしょ?
いや、おばさんたちとかじゃなくて…
私的に誰よりも信用してる人からの話があるから。
仲良いおばさん、ってこと?
ううん。お姉ちゃん。
姉の財布の事件は、うまく隠し通せたと、きっと彼は思っていたんだ。
お姉ちゃんから聞いた話があるから。
なんか、車の下に置いてたって聞いたよ。
はぁ?何それ。
オレとお姉さんが会ったの、玄関の方だよ?
駐車場の車の下に置いたんだったら、それが見えるはずがない。
姉の位置、確認しとるやないかー