姉が抱えていた、私より早く感じた違和感。
それはなんと、会場に着いた直後だったという。
私の後ろで、姉と彼とのやりとり。
彼が姉にトートバッグを渡した、というだけの話だが。
なんとSくんは、両手でガバーっっ!とトートバッグの口を大きく開けて姉に渡したそう。
中身があまりにも丸見えになって、姉はビックリしたそう。ハンドタオルも、化粧ポーチも、スマホも財布も。
乱雑に置かれた様子をSくんが見たことを、姉は確認したらしい。
すごく恥ずかしくてビックリしたそうだ。
女の人のかばんを、あんな渡し方する?と。
普通、肩掛けのトートバッグだったら、片手で渡さない?なんであんなにガバーっと開けたの??
…と。
そんなことが起きていたなんて、全然知らなかった。
財布を盗ったのだとしたら、おそらく演奏が始まったばかりの、空白の10分。
なぜ姉の財布に手を出したのか…家主の娘さんたちが、姉や私に告げ口をする、とまで考えていなかったのかもしれない。
実際、聞いていなかったら、姉はかばんを探さなかった。家に着いてから、または翌日になってから、財布がないことに気づいたろう。
もしかして、昨日のお宅に忘れてきたのかな?そう思ったときには、もうなんの証拠もないのだ。
それが、脱衣所で、どうやら私と姉に告げ口をしている様子を彼は見てしまった。
財布を戻さなければ。
身体検査でもされれば、逃げ道がなくなる。
炎天下のアスファルトを、靴もはかずに車の下に盗った財布を置きに行ったに違いない。
そう、姉は言った。
その話が終わった頃…Sくんが戻ってきた。