冬ちゃん、私の財布、やられてたよ…
姉が泣き顔で言う。
お姉ちゃん、どういうこと?彼が来る前に教えて。
姉の話はこうだった。
財布を探しに来た姉。車のダッシュボードから財布とスマホを取り出し、トートバッグに入れたことをしっかり覚えていた。
なのに、財布がバッグから消えていた。
車も見に行った。周りに落ちてないかも探した。でも見つからなかった。
玄関に戻って、泣きそうになっていたところ、Sくんがリビングから出てきた。
玄関に座り込み、トートバッグを漁っている姉と、スマホで喋りながら歩くSくんと、目が合ったと言う。
姉は怖くてたまらなかったらしい。
玄関は二ヶ所ある作りで、私たちの靴は姉がいた場所の靴箱に置かれていた。
が、彼はもうひとつの玄関から、なんと靴下のみの裸足で外に出ていったというのだ。
姉は、瞬間的に「このまま逃げられちゃう!」と思ったらしく、追いかけるように外に出たそう。
姉が外に出たとき、車のある駐車場の向こうにいたそう。距離が結構あるし、ただ電話が聴かれたくないだけの理由にしては、不自然な遠さだった。
何より裸足なのだ、彼は。
炎天下の熱いアスファルトを、車の向こうまで歩く必要はなかったはずだ、と姉は言う。
姉は恐怖心を抑えながら、演技をしたそう。
おかしいなぁー?どこかなー?
と。
電話が終わったと思われるSくんがそばを通りかかった際に、
聞いてー?タバコ買いに行こうと思ったのにさ、財布が見当たらないんだよ!
どうしようー!!
と。
怖い中、よくそんな演技ができたな、と感心しつつ話を聞いた。
Sくんはおもむろに車の側にしゃがみ込み…
あれじゃないですか?
と言ったそう。
車の下を姉が覗き込むと、助手席側(私が座っていた方)のタイヤの側に、隠れるようにあったそうだ。
絶対に、彼が置きに行ったんだ
と姉は言った。
なぜか。
姉は私より早く、ひとつの違和感に気づいていたのだった。