リビングに戻ると、お客様が一人一人、感想を述べられている最中だった。


私1人で戻ったからか、Sくんが

お姉さんは?

と耳打ちしてきた。


うん、車に荷物置きに行った。大丈夫。


と彼の顔も見ずに私が言った。

Sくんは、


…わかった。嫌なこと言われたんでしょ。あとで説明するね。


と耳打ちした。


うん。


やはり顔も見ずに答えた。

心当たりは…あるらしい。

何なの?何が起きてるの?


にこやかな顔でお客様の演奏への感想を聞くふりをしながら、心では全く違うことを考えていた。


何も知らない奥様が何度か、「お姉さんは?」

と聞いてきた。


あ、荷物を置きに行ったんです。

もう戻ると思いますー


と、笑顔で伝える。

姉は戻ってこない。


荷物多いなら、オレが手伝いに行こうか?

とSくんが耳打ちしてくる。


ああ、大丈夫大丈夫。あの人タバコ吸うから。

タバコでも吸ってるんじゃないかな。

と答える。


攻防戦だ。


しばらくすると、Sくんがスマホを取り出し、


ちょっと職場に電話してくる

とリビングの外に出た。


うん、わかった

と答えた。


まさかあんなことが起きるとも知らずに。