「そのほかにも、何人とヤッたの?とか聞いてきて。そのヤッた人と僕とで、僕に足りないのは何?とか聞かれたから、キモって思って。

そーゆーの1回目で会っただけじゃ私決めないんで、って返した」


Tくんがニヤニヤしてる。

Tくんとは会ったその日にセックスしたからだ。


「ホントだよ!?私普段そんなことしないんだからね」

「俺はイレギュラーなんだねー」


嬉しそうにさらにニヤニヤする。


「そいつさ、未婚?離婚歴あるの?」


Tくんが聞いてくる。


「未婚」

「やっぱりー」


40を越えて、離婚歴がなくマッチングアプリをしてる人は、性格に何かしら欠陥がある、というのがTくんがよく言う定義。(あくまでTくんの言い分です)


「んー、まあ価値観のズレがあったのは、やっぱり一回結婚生活送った人と、未婚の人と違いがあったのかも…」

「だから言ってんじゃんー。よく未婚の人と会ったね」

「未婚かどうかとか、その時はもうやさぐれててプロフよく見てなかったんだもん」

「何やさぐれるって。ヤケになってたってこと?」

「そうだよ」


正直に言う。


「アプリ始めたのはさ、穏やかにこの先の生活が送れるパートナーが欲しいなぁ、って思ったからなのに」

「うん、知ってる」

「なのに、今一番仲良くしてる人がTくんでさ」

「俺もそうだよ」

「だってTくん、付き合うとか言わない、って前に言ってたじゃん」


あー、あんまり言わない方がいいよ、私。


でも言葉が口から出てしまう。


「うん、言ったね。そういうのって、言葉にして始まるってよりは、いつのまにか良く一緒にいるな、とかそういう物かなって思ってるから」


私は、Tくんの彼女に今どうしてもなりたい訳じゃない。だから、あんまり詰めなくていいんだよ、私。


「ちなみにさ…私ってどういう関係なの?セフレ?」


ああ…言ってしまった。私のバカ。


「セフレ…違うな、セフレ以上、恋人未満」


ほらぁ…欲しくもない言葉を聞くことになった。わかってたのに、そんなこと。


「セフレ…以上なの?」

「そりゃそうだよ。週一で会ってるんだよ?セックスする女は何人もいらない」


いわゆる、セフレのエース、ってやつか?

元々今すぐ彼女になりたかった訳じゃないから、嫌な訳ではない。


「ふーん。そうなんだ。そしたらさ、私がアプリで他の男の人と会っても別に何とも思わないってこと?」

「だってそうそう俺以上のヤツいないもん。今回みたいにネタになるから、会えばいいじゃん。」

「わかんないじゃん。すっごい良い人と出会って、好きになっちゃうかもしれないよ?」

「ないね。自信あるもん」


ムカつく…(笑)

確かに今、一番一緒にいて楽しいのはTくんだから、一概に否定もできない。


店を出て、ホテルへ向かう。

途中の車内でも、信号が赤になるとキスをせがむTくん。付き合いたてのカップルみたいだ。


「来月さ、車で温泉に行かない?」

「え、行きたい」

「じゃあ日にち決めよ。前の日の夜に迎えに行くからさ。夜、道が空いてる時間に草津に行こ」

「草津なんて、スキーで若い頃に行ったきりだなー!楽しみ!」


ホテルで体を重ねる。丁寧に時間をかけて前戯をしてくれる。

Tくんが入ってくる頃には、体が熱くなって「ねぇ、好きになっちゃうよ…」と耳元で訴える。


「俺も好きになってるよ」と囁き返してくれる。

セックス中の「好き」にどのくらいの信憑性があるのかは謎だけど…


事後も優しく抱いてくれる。

「幸せ。天国みたい。天国行ったことないけど」


とTくんが言う。

二人で顔を見合わせて笑い合う。