「ケンジさんのSNSの炎上、知ってますよね?」


と今妻ハルコ。


「…知らないです。そういうの、調べても嫌な気しかしないことがわかってるので」


と振り絞るように返事をした。


どうして私は今、会ったこともないケンジの今妻と電話をしてるの?


しかも年が明けたばかりのこんな時に。


昨日の『非通知』の着信も、この人だったんだ。


息子のとった電話に「ケンジの妻です」と名乗って息子を混乱させたハルコ。


再婚したことなんて、私も、ましてや子供達も知らない。

息子はこの電話のあと、怖くて家電話の着信がとれなくなった。


怒りと疑問と恐怖とで、頭の中がぐるぐるしていた。


「ケンジさんは、その炎上のせいで、担当していた番組からも出禁に。日本のテレビ業界では働けなくなったんです」


はぁ…

いつかそうなる日が来るだろう、と思っていた。

パーティーで出会ったモデルや女優の卵を、積極的に番組に出演させるケンジ。


しかも1人や2人じゃない。

同じ業界の女性に手を出して、付き合っただ別れただを繰り返して、評判が落ちないはずがない。

それで職を失っては、自業自得、だ。


「彼は今、ヒモ状態なんです」

「冬さんからも、働くように言ってください」


いや、もうケンジは『子供達の父親』というだけの繋がりなので。

彼が養育費を払わないのであれば、給料差押え、または彼の両親へ支払い義務が移行する。


「私は今の彼がどんなふうだろうと、関係ないです。離婚してるんですから」


「関係なくないですよね!?養育費や慰謝料を受け取ってるのだから」


と、大きな声でまくしたてる。


「養育費などの問題は、私と彼との問題です」

「彼の女性関係やお金にルーズなところが理由で別れたんです。そういうことをご存知で、ご結婚されたんではないのですか?」


私も震えてしまいそうな声をなんとか落ち着けて、精一杯言葉を返す。


「彼は、嘘ばかりつくんです。騙してほかの女性に手を出していたんです」


はぁ、でしょうね…

気の毒だとは思うけど、あなたに寄り添ってる余裕は私にはない。何より、ケンジを通しもせずに私の携帯電話や家電話に電話してきたことも、許すことができない。


「私もケンジさんとの結婚生活の間、あなたと同じような思いをしたのでお気持ちはわかります。ですが、何度も申し上げますが養育費等は私とケンジさんの間の取り決めで、あなたと直接お話ししなければならない理由は何一つありません。

息子もあなたからの電話に怯えているし、はっきり言って不愉快です。

それらを伝えるために、私に電話して来たのですか?

何かあるならケンジさんと話します。ご用件が以上であれば、電話は切らせて頂きます」


とこちらも言い分を伝えた。すると、


「待って」


「お子さんたちを、ケンジさんの実家に預けないんで欲しいんです」


強い口調でハルコはそう言った。


は?


あ ず け る ?