どうも、ごきげんよう(笑)

今回は珠玉(テヘ)の物語を載せます。
冒頭から気色悪くて申し訳ありません。

題目通りに「屁、屁、屁」のオンパレードです。

下ネタを憎悪している方はお引き取りを。
ワタクシとて命はまだ惜しく思うのです。

そんなこんなでこいてみましょう!
勇気りんりんでこいてみましょう!

以下、こき散らかします。


世界は屁で溢れている
〜生涯を彩る屁ピソード〜
3連発!(屁だけに)


【魔術師の臨終に】


海沿いの町に建つ病院の一室。

窓枠に頬杖を付いて少年は景色を眺める。

ささやかな人波が行き交っており、
閑散とした商店街に吸い込まれる。

目の前の交差点には何の変哲もない日常が。
と考えて思い直す。人の死もその延長線上。

毎日が誰かの誕生日であり、
毎日が誰かの命日でもある。

よく賜ってよく全うした。
甲乙付け難く尊い出来事。

それでいて何の変哲もない日常に過ぎない。
交差点の信号が赤に変わって流れが止まる。

これが最後だろうかと覚悟をすると、
不思議な事に大抵の場合そうならぬ。

最後とは残酷なまでに呆気なく、
恐れれば恐れるほどに牙を剥く。

・・・・・・全部祖父の受け売りに過ぎない。

信号が青に変わって少年は振り返った。

傍らのベッドには祖父が眠る。
もう長くはないだろうとの事。

病室には心電図の音が淡々と響き続ける。

・・・・・・ピッ、ピッ、ピッ。

時たま祖父は小難しい事を語り退屈も覚えたが、
底抜けにお茶目で度々遊び相手を務めてくれた。

コメディー全般に傾倒していた祖父は、
何よりもこよなく「屁」を愛していた。

孫をも僅差で上回らんばかりに可愛がり、
常々「屁の魔術師」を自称していた位だ。

自称でもしない限りは誰も呼ぶまい。
お爺ちゃん子の少年ですらそう思う。

屁を巧みに操り「ぱ行」は天下一品だったが、
だから何だって言うんですとは母の談である。

・・・・・・ピッ、ピッ、ピッ。

現在に至るまで幾度となく祖父に屁を嗅がされた。

四季や時間帯や喜怒哀楽に関わらず、
少年の顔の前で豪快に屁をこくのだ。

いつもは非常にスローリーな祖父であったが、
その時の俊敏さたるや特筆すべきものがある。

臭気に襲われ咳き込む少年に向かって、
謎のウインク二回がお決まりであった。

・・・・・・ピッ、ピッ、ピッ。

「儂が他界したらば千の屁になり再会を果たそう」

・・・・・・ピッ、ピッ、ピッ。

祖父と交わした珍妙な約束を思い出す。

面会時間も終わりが近付く頃、
少年を迎えに家族が到着した。

渋々と帰り支度を済ませて祖父を見やる。

・・・・・・ピッ、ピッ、ピッ。

それじゃあまた明日と声を掛けて扉に手を伸ばす。

・・・・・・ピッ、ピッ、ピーーーーーー。

その場の全員が一瞬の硬直を経て、
反射的にベッドのそばに駆け寄る。

・・・・・・ピッ、ピッ、ピッ。

臨終にあらず祖父の「屁」の仕業であった。

電子音と寸分違わぬクオリティー。
ここぞのタイミングの屁であった。

家族一同吉本新喜劇の如くつんのめる。
片隅の若いナースがプッと吹き出した。

勿論咎める者など居ない。

思わず「魔術師の真骨頂だな」と父が呟き、
眉を吊り上げた母にパンとお尻を叩かれる。

・・・・・・ピッ、ピッ、ピッ。

ただ祖父に覚醒している様子はなく、
偶然の産物であろうと片付けられた。

死を間近に控えた肛門の不手際であったのだ。

それでも少年は見逃さなかった。
密やかに送られたそのサインを。

微かではあったものの「瞼が二度動いた」のを。

・・・・・・ピッ、ピッ、ピッ。

・・・・・・ピッ、ピッ、ピーーーーーー。

・・・・・・ピッ、ピッ、ピッ。

先程のナースが堪え切れずに退散し、
もう見向きもせずに病室を後にする。

帰路に着きながら少年は思う。
まったく天丼してる状況かと。

・・・・・・。

件の「屁騒動」から数日経過したのち、
家族に看取られ祖父は息を引き取った。

葬式だ何だと慌ただしくあったが、
少しずつ日常を取り戻しつつある。

茜色に侵食され出した散歩道を少年は行く。

なだらかに登った先には小高い丘。
放課後に祖父と度々訪れた場所だ。

ぼんやりと歩きながら葬式の内容を反芻する。

勿論祖父プロデュースである。

手始めに戒名の下に(笑)と入れる案は、
阿修羅の如き形相で一喝され却下された。

しかしながら祖父はめげるという事を知らない。

遺影はプリクラ風に加工が施されており、
参列者達を困惑させると共に映えていた。

撮影大歓迎の立て札はお手製である。

棺桶の中には大好物のポテチ(うすしお味)が、
亡骸を埋め尽くしてしまう程に敷き詰められた。

もはやポテト坊やの葬儀の様相で、
唇には塩分メイクが為されている。

鼻の穴の綿は片一方が赤く染まっており、
両方合わせて「紅白」という仕上がりだ。

読経に際して特別VTR極楽浄土の舞が披露され、
出棺のBGMは吉本新喜劇のオープニングテーマ。

軽快なジャズを伴わせて霊柩車は去った。

呆然と立ち尽くす参列者達。
涙とは無縁の最後であった。

・・・・・・。

少年はヨシと小走りになり向かう。

我が家を目指すカラス達が談笑を終える。
子猫を抱いた少女が風の如く駆けて行く。

やがて丘のてっぺんに辿り着いて、
斜面に腰を下ろして夕景に染まる。

・・・・・・不意に少年は違和感を覚えた。

周囲に目を配るも生き物の気配はなく、
ただ薄暗さと手を取り合っているだけ。

「黄昏時は逢魔が時とも呼ばれたりしましてねえ」

稲川淳二調で語る在りし日の祖父。

生暖かい空気が首筋をふんわりと撫で回す。
・・・・・・まさかねと少年はお尻を触る。

屁をしたのは起き抜けの事である。
無意識にこくほど衰えてはいない。

・・・・・・。

まあいいかと呟いてその場でウインクを二回。

・・・・・・。

頬を伝う涙に気付いて踵を返す。
失礼な話はじめての涙であった。

笑みを称えて少年は丘を駆け下り急ぐ。
祖父の死の延長線上に皆の人生は続く。

ずっと、ずっと、そのまた先へ続いていく。

腹が減っては何とやらである。
お腹が間抜けにグウと鳴いた。

〜Fin〜


世界は屁で溢れている
〜生涯を彩る屁ピソード〜
3連発!(屁だけに)


【倦怠期の冬暁に】


皆が春に恋焦がれる朝。

昨夜の予報の通りに肌寒い朝。

それに倣うかのように冷めたままの夫婦。
キッチンでは妻が一人分の朝食を拵える。

仲睦まじく笑い合う、
結婚当初の夢を見た。

何を今更。溜め息を吐く。何で今更。

・・・・・・。

一体いつからだっただろうか。
木綿豆腐を切りながら考える。

はじめは些細なイザコザだったはずだ。
その内その内と見て見ぬ振りを続けた。

日々積み重なって折り重なって、
あれよあれよとこんがらがった。

まるで「不良品の知恵の輪」のような現在だ。

目測を誤って指を切りそうになる。
小さく肩を竦めて豆腐をひと撫で。

一瞬の沈黙。

けたたましくアラームが鳴り響く音がした。

暫くして夫がリビングに顔を出し、
妻をチラと見て洗面台へと向かう。

蛇口から出る冷水に顔を顰めて対応する。
引っ込みかけたアクビを無理矢理に出す。

仲睦まじく笑い合う、
結婚当初の夢を見た。

何を今更。溜め息を吐く。何で今更。

・・・・・・。

一体いつからだっただろうか。
無精ヒゲを剃りながら考える。

はじめは些細なイザコザだったはずだ。
その内その内と見て見ぬ振りを続けた。

日々積み重なって折り重なって、
あれよあれよとこんがらがった。

えいと冷水を掬って荒々しく洗顔を済ます。
ある衝動に駆られながら鏡の己を見据える。

ネクタイを普段よりもきつく結び、
足取り重く再びリビングに向かう。

「・・・・・・おはよう。今朝は一段と冷えるね」

洋館の錆び付いた扉をギイと開ける。
そんな感覚を伴いながら声を発した。

小気味好い音がピタと止む。

一瞬の沈黙。

と無情にも包丁の音が再開される。

その刹那「屁」がキッチンを隔てて小さく響く。

静まり返ったリビングに妻の屁。
まるで挨拶を返すかのように屁。

ぎこちなく、でも確かに。

戯れ合いながら挨拶を交わすかつての二人。

程遠くても、でも確かに。

・・・・・・。

耳たぶまで赤く染めて黙って俯く妻と、
細い肩を遠慮気味に抱き寄せる両の腕。

しばし間を置いてお互いに見やる。
どちらともなく変な笑みが浮かぶ。

仲睦まじく笑い合う、
結婚当初の夢を見た。

偶然が偶然を呼び合った何て事のない冬の朝。

結露した窓。炊飯器の湯気。
小学生の笑い声。重なる唇。

雪解けの時はもう間近に迫っている。

分厚い雲を陽光が貫いた。

〜Fin〜


世界は屁で溢れている
〜生涯を彩る屁ピソード〜
3連発!(屁だけに)


【新元号の生命に】


蝉達の求愛が降り注ぐ。

8月最終日の午後と澄んだ空。

小高い丘の上に少女は立っている。

半袖のTシャツに半ズボンという出立ち。
玉のような汗を流しながら眼下を眺める。

肘と膝小僧のすり傷を絆創膏が塞ぐ。

一見すると少年のようで事実よく間違えられた。
それでもベリーショートには赤い髪飾りが光る。

自発的に買い求めた訳ではなく、
母からの半ば強引な贈りものだ。

足元には一匹の三毛猫が寛いでいる。
若干ふてぶてしい表情をした子猫だ。

表情通りに無愛想で滅多に擦り寄ってくれない。
しかしその部分こそが彼の魅力だと少女は頷く。

丘の下には生まれ育った景色が広がる。

都会と田舎の混ざり合う土地。
衰退と発展の入り混じった町。

少女はこの何でもない丘でよく過ごした。
日暮れの時まで様々な事に思いを馳せる。

面白い事、ツマラナイ事、斜め前の席のアイツ。

今年で小学4年生になった少女には、
もうはっきりと自我が芽生えていた。

お年頃と表現されてしまえばそれまでだ。
味気ないけれども仕方のない事でもある。

その方が誰かにとって都合が良い。
その方が大人にとって都合が良い。

ひたいの汗を手の甲で拭う。

夏休みが終われば間もなく運動会を迎える。
少女は特に「徒競走」を心待ちにしていた。

走る事も好んでいたがスタートの瞬間が堪らない。

その場の全員の視線が走者へと注がれる。
緊張感を握り締めつつ構えて合図を待つ。

静寂を切り裂く「号砲」立ち昇る煙。

その音と共に胸の奥で何かが弾けるような感覚。

後は無我夢中で駆けるだけだ。
順位など二の次。砂埃が舞う。

心躍らせるイメージを母の曇り顔が遮った。

「もっと女の子らしくしなさい」

それが母の口癖でありホトホト聞き飽きていた。
ほんとうに古風なんだからと少女は肩を落とす。

ただし込められたトゲはほんの僅か。
口うるささも含めて母を愛している。

「もっと女の子らしくしなさい」

多様性の三文字が脳内に浮かんでいた。
近頃メディアを賑わせているその言葉。

とはいえ少女は子どもながらに気が付いている。
泡のように儚いひと時の「流行り」に過ぎない。

ただ少女には確信めいたものがあった。

長く長く日の目を浴びなかったその価値観が、
ようやく「流行るに至った」事が重要なのだ。

地中深くから這い出た蝉の幼虫達が、
じわりじわりと樹木を目指すように。

やがて人知れず神秘的な羽化を遂げるように。

その予感はいつか現実になる。

静寂を切り裂く「号砲」立ち昇る煙。

・・・・・・。

と意図しない「屁」が傾き出した空に放たれた。

・・・・・・。

反射的に確認するも人影はなくホッと一息。
スイートポテトを食べ過ぎたなと舌を出す。

多様性とやらがレディーのおならにも、
寛容であってくれたら助かるのだけど。

そんな事を考えながらクククッと声を漏らした。
一連の流れをもしも母に知られたら何と言うか。

例の口癖が頭をよぎり少女は笑いを噛み殺す。
心の中でアカンベをして「ごめんね」と呟く。

少女は赤い髪飾りを手際良く外す。
そのまま三毛猫の頭に付けてやる。

不服そうな鳴き声をしこたま上げて抗議される。
やはりその部分こそが彼の魅力だと少女は頷く。

「アラ?男の子もお粧しする時代よ?」

わざと気取った言い回しをして屈託なく笑う。

そう。疾きこと風の如く。

子猫を抱き上げて少女は駆け出す。
近未来に向かって茜色を疾走する。

蝉達の求愛が降り注ぐ道を。

〜Fin〜


【オチ】


さて如何だったでしょう?

3連発の「屁ピソード」を体内から見送りました。

あちらこちらに「屁」が見え隠れ。
いえいえがっぷり四つであります。

お上品な方々がご覧なさったら卒倒もの。

また愉快な思い付きが屁の如くありましたらば、
その都度その都度書き上げられたらと思います。

需要などはガン無視でこき申します。

お付き合いどうもでした。