世界保健機構(WHO)は全世界における死亡に対する危険因子として、高血圧、喫煙、高血糖に次ぐ第4位に「身体活動・運動の不足」を位置付けています。

 

日本では喫煙、高血圧に次いで、非感染性疾患による死亡に対する3番目の危険因子であることを示唆する研究もあるそうです。

 

洗濯や掃除、炊事など家事の自動化や、車や電車など移動手段の発達は我々の生活を便利にしてくれました。一方、身体活動量は明らかに減りましたが、そのことが死亡リスクを高めるとは驚きで、現代社会に生きる者は胸に刻むべき現実ですね。

 

 ところがです、文明の利器のなかった江戸時代の庶民を考えてみると、人々は通勤、買い物、行商と、どこへ行くにも歩いていました。

 

そして、楽しみの一つは行楽、その中心が花見で、春なら桜はもちろん、ツツジに桃。夏にはハスや藤のほか、ホトトギスや蛍の声や光を求め、秋や冬には菊に月見、紅葉狩り、雪見と、名所に出かけて酒食を楽しみました。

 

例えば、桜の名所、飛鳥山(東京都北区)なら江戸中心から約8㌔。往復16㌔をテクテクと、ではなく、きっとスタスタと歩いて行ったと思います。

 

 そして、もう一つの楽しみが旅で、大人気は伊勢詣です。三重県伊勢市の伊勢神宮まで江戸から往復1000㌔弱。「江戸のスポーツ歴史時点」(柏書房、谷釜尋徳著)によりますと、

 

下新井村(埼玉県所沢市)の男性の日記から計測したところ、帰りは近畿、四国まで足を延ばし、総歩行距離は約1900㌔となり、全国各地から人々はときに数千㌔も歩いているのです。

 

 耐え抜かれたアスリートの話ではありません。歩いたのは、ごく普通の庶民で、男性だけでなく、各地の女性たちも、杖を片手に草鞋を履き1日30㌔弱ほど歩き続けたといいます。

 

聞くだけで気が遠くなるような歩き旅を、なぜ一般庶民ができたのか。それは日常生活が強い足腰を鍛えていたことにほかなりません。歩くことは生きること。楽しみも、歩きと共にあったのですから。

 

 現在、成人は歩行か同程度以上の身体活動を1日60分(約8000歩)以上、高齢者は40分(約6000歩)以上が健康維持に推奨される目安と言われています。

 

1歩70㌢とすれば、8000歩はたったの5・6㌔。かつての江戸っ子が聞いたら「そんなの朝飯前ってもんだ。運動しねえと病気になるなら、グズグズ言ってねえで、さっさと歩きな」と度やされますね。

 

< 私は高高齢者、30分の散歩で4300歩ぐらい。その後、家にいても何やかや歩きますので5000歩ぐらいにはなりますよ。>