スポーツ界で出生時の性と自認する性が異なる「トランスジェンダー選手」の競技参加が進んでいます。

 

国際競技団体は公平性の観点から参加を制限するルール整備を目指していますが、自認する性を尊重しつつフェアな環境をどう作るか、試行錯誤が続いています。

 

 昨年12月、議論に一石を投じるボクシングの試合がありました。

世界ボクシング評議会(WBC)女子フライ級元王者の真道ゴー選手(36)が男子として男子プロ選手と対戦したのです。

 

性別適合手術を受けた選手として初の準公式試合で、判定で敗れましたが、相手が「男子と変わらないかそれ以上」というほどの善戦をみせました。

 

 真道選手は性同一性障害を抱えながら女子選手として頂点を極め、2017年に引退。手術を受け戸籍上も男性となり、22年に男子としてプロ挑戦を表明しました。

 

しかし、日本ボクシングコミッション(JBC)は出生時の性による筋肉量や骨格などの差を踏まえ、プロテスト受検について「打撃を加えて勝負を決める競技特性から容認に踏み込めない」と慎重姿勢を示しました。

 

JBCはプロテストの代替え案として、タイトルと無関係ながら実戦形式で、レフェリーが試合を止める判断が早くけがのリスクが低い準公式試合を実施したのです。内容を踏まえてプロライセンス発行の可否を検討しており、真道選手は「同じような境遇の選手の道を切り開くきっかけになれば」と話します。

 

 トランスジェンダー選手に注目が集まったのは21年東京五輪。女子重量挙げでローレル・ハバード選手(ニュージーランド)が性別適合手術を受けた選手として史上初めて出場しました。

 

 国際オリンピック委員会(IOC)は「ジェンダー平等」の理念から参加を推進する一方、公平性の確保に注意を払ってきました。女子選手側から「男女には身体能力差があり、フェアではない」との声が根強いためです。

 

15年に策定したルールでは、筋肉質な体格を作る男性ホルモンのテストステロンが継続して最低でも12か月、血中1㍑当たり10㌨・㏖以下を条件としました。

 

 しかし、将来的に瞬発力、持久力など必要な能力が異なる協議への参加が予想され、21年11月に方針転換。「テストステロンが必ずしも運動能力の指標にはならない」として、各国際競技団体が独自にルールを定めるよう求めました。

 

22年3月には競泳全米大学選手権女子自由形でトランスジェンダー選手が優勝し、規制を求める声がさらに高まりました。

 

 多くの競技団体が導入したのが、具体的な特徴が表れる思春期を「男性として経ていない」ことを求めるルールです。

 

世界水連は22年6月、「12歳までに性別変更」と年齢に踏み込んだ指針を示し、「12歳までの性の決定を推奨するわけではないが、科学的に思春期以降の転向は不公平をもたらす」と説明。世界陸連、国際自転車競技連合も昨年、思春期を基準に」定めました。

 

 公平性を重視したルール作りの一方、自認する性をどう尊重するかという課題が残るほか、女性から男性に性別を変えた選手については議論が手つかずなのです。

 

日本スポーツとジェンダー学会会長の來田享子・中京大教授(スポーツ史)は「社会が多様化した性を受け入れる中、スポーツが性別を男女の二元論で決めることに無理が生じている。医学や科学に基づいて公平性や安全性などの根拠を示し、迅速かつ柔軟にルール整備を進める必要がある」と指摘されています。

 

< 非常に難しい問題ですけど、何年も試行錯誤しながら結論を得ればいいと思っています。>