翌朝、DAISOで話す美結とみかん。

みかん「あおいちゃん元に戻ったの?!」

美結「うん...でも、今思ったら」

美結「あの時、一緒に警察に行くべきだった」

美結「また引き離されるのが嫌で」

美結「一緒に死ぬ以外、見えなかった」

みかん「え...?」

みかん「一緒に死のうとしたの...?」

美結「...うん」

美結「人影無い丘の上で」

みかん「死ぬことだけはだめだよ!」

みかん「せっかく会えたのに!」

美結「...分かってる」

美結「でも、結局死ねなかった」

美結「昔を想い出せば想い出すほど」

美結「胸が締め付けられて、殺せなかった」

みかん「...」

みかん「あたしは二人が死ぬなんて嫌...」

美結「...死なないよ、てか死ねない」

みかん「お願いね...?」

美結「うん」

みかん「...それで、あおいちゃんは?」

美結「目が覚めた時にはいなかった」

みかん「え!?」

美結「ヤツらに見つかったんだ」

みかん「...」

美結「俺が電流で気絶させられてる時、」

美結「また葵はあの家に連れ戻された」

みかん「...ひどい」

美結「だから今、警察に再調査を依頼してる」

みかん「あおいちゃんが記憶を話したら」

みかん「前より信じてくれるかな...」

美結「...今度こそは、」

美結「本格的に動いてくれると信じる」

みかん「うん...あたしも信じてる!」

みかん「みゆとあおいちゃんは、」

みかん「また幸せに戻れる」

幼児「きゃあああ!」

幼児「きゃあああ!」

美結「...」

店の中を走り回って叫び散らす幼児に

イライラする美結。

美結「ッチ...うるせぇなあ」

美結「クソガキがボケ」

みかん「...」

睨みつける美結を不安な表情で見ているみかん。

美結は誰よりも一番余裕が無かった。


変わらぬ穏やかな町に一人、

晴天の空を見上げる。

美結「...」

美結は神を信じていた。

あの時、聖堂で葵と祈った愛に

一筋の光を差してくれると。


その後...

疲れきった身体で家へ帰ってきた美結。

美結「...ただいま」

美結の母「おかえり」

母に迎えられた時、スマホの着信音が鳴る。

(♪~)

美結「っ...」

それは警察からだった。


【電話】

美結[もしもし]

警察[お電話失礼いたします]

警察[〇〇警察署の〇〇です]

警察[ご依頼いただいていた]

警察[再調査が完了しましたので、]

警察[結果についてお知らせいたします]

美結[はい...]

息を呑んで警察から調査の結果を聞く。

美結[......]

警察の言葉に美結は視界がぼやける。


葵は、あの日のように別人になっていた。


電話を切った美結は、

壁を殴り、扇風機を蹴り倒す。

美結「死ね!!」

(ガシャンッ!)

その衝撃でグリルが外れる。

美結「もう嫌だ!!」

美結の母「っ...」

走って家を飛び出す美結に

母は立ち尽くしていた。


(バンッ!!) (バンッ!!)

平常心ではない美結は、

マンションの扉を強くぶつけるように閉める。

響き渡る衝撃音に住人達は驚く。

殺戮者の目でスマホを地面に投げつけ

赤信号になった横断歩道を無視して渡る美結を

車や人々は唖然と見ていた。


工業団地に来た美結は、

引きずるように歩く。

美結「...」

防波堤に立つと、

前日の雨で増水している河口を見下ろす。

美結「死んでしまえ、自分なんて」

美結「...」

その場に座り込む美結は俯いて

水面に浮かぶ紙くずを眺める。

美結「...」

躊躇ったかのように河口に背を向け、

砂と灰で脆くなった木の枝を拾って折ると

左腕に傷を入れる。

美結「...」

2本の細い跡が付いて切れてもない肌。

何本も入れて出血するほど深くと考えるが

菌の炎症を怖がって木の枝を投げ捨てる。

美結「...」

結局、毎回死のうとする体に脳は追いつかず

手前の味気無い感覚に

その気でいられるのだった。

たとえ今、ここに葵と一緒にいても

"死ねない"のが現実だと。

美結「...」

人影無い空の駐車場に座る。


時間が経って、落ち着いた美結は

力が抜けた足で家へ帰ってきた。

美結「...」

そこへマンションの裏口から出てきた隣人女性は

美結を見て白い目で去って行く。

もう人目なんてどうでもよかった。


生気の無い目で部屋に横たわる美結。

美結「...」

美結の母「何かあったんじゃろ?」

美結「...」

美結の母「その人とはもう合わんってことよ」

美結の母「縁切ったら?この際」

美結「...」

美結の母「自分の体は自分しか守れんけ」

美結の母「大切にせんと」

美結「...」

美結は言葉が出なかった。


その夜...

やっとスマホに手をつけた美結は、

みかんからのメッセージに返信する。

警察の調査結果に"諦める以外無い"

その短文以降、葵の話に触れなかった。

美結「...」


こんなことならあの時、

『水晶のひかり』を口ずさむんじゃなかった。

また別れを味わう運命だったなら、

再会なんてしたくなかった。

ならば、大人になって再会したことも...いや、

俺と葵が出逢ったことすら"過ち"だった。