美結「え?」

美結「...そっか」

美結「そうだよな...」

美結「うん...大丈夫」

美結「大丈夫だって」

美結「おう」

美結は電話を切る。

美結「...」

美結「はぁ...」

一緒にパリへ行こうとしていたみかんは、

母に反対されたのだった。

美結「...特にみかんの親は過保護だからな」

美結「俺の親もだけど」

美結「...また一人で行くしかねぇ」

前回のことで希望を失い、

二度とパリへ行く気は無かった美結だが、

みかんの熱意に再び背中を押された。

美結「...一人で上等」

美結「死んでもアイツのものにさせてやるか」

脳裏に焼き付いている華の皮肉な笑み。


昨夜...

美結「明日パリに行く」

美結の母「は?」

美結「前は黙って行ったけど」

美結「今回はちゃんと言う」

美結の母「...なんでまた?」

美結「...」

美結「助けたい友達がいる」

美結の母「やっぱり何かあったんじゃな」

美結は葵ということを伏せて母に全てを話した。

美結の母「信じられんな」

美結「嘘じゃない」

美結の母「そんな友達も初めて聞いたし」

美結の母「...トマトのことじゃないよな?」

美結「違うわ」

美結「アイツは日本でキャバクラやっとるわ」

美結の母「じゃあ誰なん?」

美結「...」

美結「葵」

美結の母「...はぁ」

美結の母「まだそいつと付き合いしとったん?」

美結「でも、今は友達」

美結の母「本当に?」

美結「うん」

美結の母「なんで今更、また連絡取っとん?」

美結の母「今も付き合っとんじゃないん?」

美結「付き合ってない」

美結の母「...」

美結「だから、その子を助けに行きたい」

美結の母「...勝手にし」

美結「...」

もし、"今でも葵と付き合ってる"と話してたら

母は会うことすら許してくれなかったと思う。


────────────────────

9年前...

美結の母「あんた、葵っていう子と」

美結の母「そういう関係なん?」

美結(当時14歳)「...違う」

美結の母「じゃあ何この絵に小説」

美結の母「女同士気持ち悪い」

────────────────────


髪をもっと短く切った美結は、

再びパリへ踏み出した。

貯金箱に残ってる財産で、初日の順序通り、

葵の父の大豪邸へ向かったが...


SP「会長のご意向により、」

SP「ご訪問はお断りいたします」

SP「お引き取りください」

以前以上に警戒を強めて門を塞ぐSP達。

美結「会長とお話したいんです」

SP「お引き取りください」

美結「では、ひと目でいいので」

美結「葵さんに会わせてもらえませんか?」

SP「お断りいたします」

美結「少しでいいのでお願いします」

SP「お嬢様は現在、」

SP「精神的に不安定な状況にあり、」

SP「外部との接触を制限しております」

美結「...どういうことですか?」

SP「詳細についてはお話できかねます」

美結「私は葵の恋人です、葵は私を必要と...」

SP「お引き取りください」

美結「...会長に従って、葵の気持ちは無視」

美結「それでもSPなんですか?」

SP「ご理解いただけないなら、」

SP「警察を呼ぶことも考えます」

美結「...」

すると、大豪邸の扉が開く。

(ガチャンッ...)

美結「っ...」

そこへ現れたのは葵の父だった。

SP「会長、こちらの方が再度訪れています」

葵の父「何度訪れようと無意味だ」

葵の父「葵は君のことなど必要としていない」

美結「...お前が葵を洗脳したせいだろ」

葵の父「どうやら葵は記憶を失ったようだ」

葵の父「君以外の人間、過去も全て」

美結「は...?」

葵の父「以前、葵の同級生が」

葵の父「我が家に訪問した際、」

葵の父「残念ながら彼女を憶えていなかった」

美結「っ...」

美結「その同級生って、華ってヤツか?」

葵の父「...何故、君が知っている」

美結「そいつ今どこにいる?」

葵の父「君には無関係だ」

美結「この家にいるのか?」

葵の父「...」

葵の父「彼女は自ら命を経った」

美結「...っ」

美結はその言葉に愕然とする。


パリと日本では、華の事件が報道されていた。

海から水死体で発見され、

時間経過して腐敗した華の全身には

大量のフナムシが付着していたとのことだった。

崖に残されていたハイヒールの下には、

1枚の遺書が置いてあった。


"尊き神よ、


私の苦悩を、どうかお聞き届けください

愛する葵様が私のことを忘れ、

私たちのかけがえのない絆が

断たれてしまったことは、

私の心に深い悲しみをもたらしております。

この運命が、

あなたの御意志によるものであるならば、

いかに私が耐え忍ぶべきか、教えてください。


神よ、私が貴方の愛を信じ、葵様への愛を通して

貴方を感じた日々を忘れることはありません。

どうか、葵様の心に私の思いを

再び宿らせてくださいますよう、

心より願っております。

彼女が私を思い出し、

私の愛が再び神の御前に輝くことを、切に望んでおります。

もし私の選択が貴方の御意に逆らうものであったなら、

心からの悔いを申し上げます。

私の心は今、絶望に沈んでおります。

どうか、貴方の御手の中へ私を導き、

安らぎを与えてください。

私の愛は神の御前において永遠に生き続けることを、

どうかお知りおきください。


さようなら、私の愛する葵様。

神よ、私を受け入れ、

私の魂に安息を与えてください。"


美結「......」