葵の父「どういう事だ!!」(ガンッ!!)

病院に響き渡る罵声と机を強く殴る音。

葵の母「...」

葵「...申し訳御座いません」

葵の父「謝罪で済む問題じゃないぞ!!」

葵の父「...お前が蘭を殺したんだ」

葵の父「お前なんていなければ」

葵の父「蘭は...こんな目に遭っていなかった」

葵の父「お前が家を出て何処へ行こうと」

葵の父「生きているだけに蘭は...」

葵の父「この疫病神が!」

葵「...」

父の圧にも押し潰され、視界がぼやける葵。


昨夜、病院の6階の窓から飛び降りた蘭は

昏睡状態で目が覚めていなかった。


美結「...」

悪夢の昨夜から今朝も電話に応答せず

メッセージも既読がつかない葵を

待ち続ける美結。

美結「...大事に至ってる」

美結「っ...」

大切な人が消えてしまうかもしれない憂鬱に

溢れ出る涙。

不安が強まる美結はスマホのマップで

葵がいる小児精神科を調べる。


葵「...」

ベッドの横で全身包帯の蘭の手を握る葵。

葵「...っ」(腕に伏せる)

そこへ葵の両親も入ってくる。

葵の父「お前は出て行け」

葵の父「蘭と何の関係も無い」

葵「...」

葵は静かに病室を立ち去る。


病院の外へ出た葵は、

壁際に立ち尽くすこと数十分...

葵「...」

俯く葵のところへ...

美結「葵!」

葵「っ...」

そこには、美結がいた。

葵「美結...?!」

美結は走って葵に抱きつく。

美結「良かった...」

葵「ここまで来てくれたの...?」

美結「電話繋がらないし既読もしないから」

美結「死んじゃったかと思っ...うぅう!」

安堵して号泣する美結の背中を撫でる葵。

葵「美結...ごめん...」 

葵「色々あって携帯見れなかった...」

美結「何があったの...昨日の夜」

美結「血だらけになってたよね...」

葵「...」

葵「蘭が飛び降りたんだ」

美結「っ...」

美結は頭が真っ白になる。

昨朝、蘭を脅かしたことが原因ではないのかと。

美結「...亡くなったの?」

葵「昏睡状態になってるよ」

美結「...」

美結「なんで飛び降りたの...?」

葵「...PTSDの症状が悪化しちゃってね」

葵「その夜だから」

美結「...その夜?昨日悪化したの?」

葵「昨日仕事から戻った時から良くなかった」

美結「...なんで悪化したのかな」

葵「フラッシュバック...」

美結「あの日殺されそうになったやつ?」

葵「うん」

美結「...そうだと思う」

葵「傍についてあげられなかった自分にも」

葵「責任があるよ」

葵「仕事を休んでも見守るべきだった...」

美結「...葵は何も悪くない」

美結「病気がそうさせたんだよ」

美結「蘭ちゃんの傍にい続けたじゃない」

美結「尽くしてきたと思うよ?」

葵「...」

美結「...大丈夫、葵」

美結「蘭ちゃんは葵に感謝してるよ」

その背後に近付いて立ち止まる人影。

美結「...」(振り向く)

美結を見ているのが葵の父だと分からず。

美結「...?」

葵の父「...」

葵「...」

葵は目を合わせず美結の手を引く。

葵の父「待て」

美結「っ...?」

葵「...」

葵の父「聞こえないのか」

美結と葵は立ち止まる。

葵の父「...しかし、無念だな(笑)」

葵「...」

その時、葵の父だと分かった美結。

美結「...」

葵の父「そんな頭が悪い奴と付き合いをして」

葵の父「家庭は振り回され、宮林家の恥だった」

美結「っ...」

葵の父「挙句の果てには、許婚を反対して」

葵の父「家を出て、其奴と浮かれていたから」

葵の父「蘭まで巻き込んだんだろ」

葵の父「これだから同性愛は...」

葵「...」

美結「...」

その言葉に美結の記憶が蘇る。


────────────────────

8年前...


葵の父「...やたらベタベタしてるな」

葵の父「同性愛なんてこと無いだろうな?」

葵(当時15歳)「...」

美結(当時14歳)「...」

葵の父「そういう感情があるなら」

葵の父「縁を切らせるぞ」

葵「...親しい友人です」

美結「...」

葵の父「...」(美結に鋭い視線を向ける)

美結「...っ」

美結「と、友達です...」

────────────────────


美結「...」

葵の父「ここまで至らせておいて」

葵の父「のうのうと生きるつもりか?」

葵「...」

葵の父「...」(葵に近付く)

葵の父「そうはさせないぞ」

美結「...」

葵の父「其奴と縁を切れ」

美結「...っ」

先が真っ暗になる美結。

葵「切りません」

葵の父「いいや、何としても切らせてやる」

葵「行こう」

葵は美結の手を引くと...

(グイッ!)

葵の服を強く引っ張る父。

美結「っ...!」

葵の父「立場を分かってるのか?」

葵の父「お前は蘭を殺したんだ」

葵「...」

葵の父「罪を償え」

美結「......」


────────────────────

美結(当時14歳)「私、葵のこと...」

美結「何があっても守る!」

葵(当時15歳)「...ありがとう😌」

────────────────────


美結「(結局...俺は泣きっぱなしだ)」

美結「(いつも葵に抱き締められて)」

美結「(守られてんだ)」


その時、美結の心が牙を剥く。


葵の父「分かってんだろうな?」

葵「...」

美結「分かってんのはどっちだ?」

葵の父「...あぁ?」

美結「てめえ葵と縁切ったんじゃねえのか?」

葵「っ...」

葵の父「何だその口の聞き方は」

葵の父「ふ、育ちが悪いだけあるな(笑)」

美結「もう縁切ってんだから関係無えだろよ」

美結「口出すな」

葵の父「此奴のせいで蘭は殺されたんだ」

美結「さっきから殺されたって昏睡状態だろ?」

葵の父「殺されたも同然」

葵の父「元はと言ったらお前のせいだ」

葵の父「罪を償え」

美結「はあ?」

葵「美結...大丈夫だよ...」

手を引こうとする葵に美結は微笑む。

美結「ˆ ˆ...」

美結「罪を償うのは蘭だろ?」

葵の父「何だと?」

美結「親に黙って帰国してた彼奴が悪いだろ」

葵の父「何も言わなかった此奴が悪い」

葵の父「13の娘が一人なのを気にもせず」

美結「彼奴は葵に嘘をついてたんだよ」

美結「"両親の許可を取ってる"ってな」

葵「...」

美結「それでも葵は不安だった」

美結「蘭は一人で大丈夫か」

美結「13歳なら危険なことも分かるだろ」

美結「どんな目に遭っても自業自得」

葵の父「...お前、蘭を何だと思ってる」

美結「...」

美結「メンヘラ」

葵の父「調子に乗るな!」

美結「調子に乗ってんのは彼奴だよ」

美結「人のものに手出すんだからな(笑)」

葵の父「どういう意味だ」

美結「葵に何度振られても追いかけて」

美結「唇まで奪って」

葵「っ...」

美結「あの女はあぁ見えて根性座ってるぞ〜」

美結「本当の悪者は誰かな?」

葵の父「...出鱈目も甚だしい」

美結「デタラメ?現実だよ」

美結「蘭も葵のこと...」

葵の父「ふざけるな!」

美結「...ふざけてんのはどっちだよ」

美結「蘭に贔屓して葵に擦り付けんなよ」

美結「これ以上、俺の葵に近付くな」

葵「...」

葵の父「...」

すると、葵の父は胸ポケットから無線を出す。

葵「...っ、マズい、逃げよう」

葵は美結の手を引いて走って逃げる。

美結「何...?」

そこへ前から現れる黒色スーツの男性達。

葵「っ...」

美結「?...」

方向を変えるが、

その先も同じ格好の男性達に行く手を阻まれる。

彼らは葵の父が雇っているSPだった。

美結「は?何...」

囲まれた美結と葵に近付くSP。

葵「...」

葵は美結をかばう。

美結「...」

その時、SPは背後から葵の首に針を射す。

(グッ!)

葵「うっ...!」

美結「葵!」

葵「...」

意識を失って倒れる葵を抱えるSPは去る。

美結「っ!...ふざけんなよおい!」

追い掛けようとする美結を

身動きできないように掴むSP。

美結「離せボケ!」

美結「あああああああああ!!」