美結「(そう言えば...)」

美結「(葵と出逢った頃は不仲だったよな)」



───10年前───


2014年7月

美結「よし、みんなそろったな!」

遥花「今日は何する〜?」

真奈美「ドッジしたい!」

千尋「やろやろ!」

大和「さんせーい」

美結「えー...ドッジ苦手なんだよなー」

真奈美「みゆがスポーツ苦手なんでしょw」

有希「ww」

美結「...まぁいいよ」

3:3に分かれてドッジボール対決をする美結達。


その後...

遥花「あついから店行こー」

真奈美「いいね!」

自転車で店へ向かう皆。

介護施設を見て止まる美結。

千尋「どした?」

美結「ここ明日行くんだよね」

有希「ふれあい介護施設...?」

真奈美「老人ホーム?なんで?」

美結「チャレンジウィークがあるんだよ」

遥花「へ〜...そんなのあるんや」

有希「待って、私も明日から職場体験w」

美結「マジで?!同じ場所?」

有希「いや、私は保育園に行く」

美結「えっ...いいなぁ〜...第1希望だった」

勇希「そうなの?」

美結「第2希望はペアの女子に合わせたからさ」

美結「老人ホームとか楽しくない」

真奈美「うちは来年だ」

大和「...なにがなんやら」

美結「あぁ〜あ...行きたくないな」

美結「せっかくの夏休みなのに」

遥花「どんまいw」

千尋「頑張れ!」

美結「今日思いっきり遊ぶぞ!」

美結「ついてこい!」

真奈美「あー!待ってよ〜!」

美結は全速力で自転車を立ち漕ぎする。


翌日...

火のように揺らぐ白昼の青空。

桃色の自転車にヘルメット、

職場体験の青色の腕章を付けた体操服で

学校に着いた美結。

礼奈「お、来た来た」

ペアの礼奈は先に着いて待っていた。

職員室の担任に報告した美結と礼奈は

信号の先の介護施設へ向かう。


自転車を止めた美結と礼奈は

そっと介護施設の裏口から入る。

礼奈「こんにちは〜...」

美結「こんにちは」

そこへ女性従業員が来る。

女性従業員「は〜い、こんにちはˆ ˆ」

女性従業員「よろしくお願いします🙇」

美結•礼奈「よろしくお願いします」

女性従業員「では、こちらへどうぞ〜」


美結と礼奈は案内された休憩室に入ると

畳にカバンを置く。

礼奈「はぁ...涼しい〜...」

美結「生き返ったー...」

美結「寝よ」(テーブルに伏せる)

礼奈「いや、だめでしょ」

美結「...」

礼奈「おーい」

美結「...グー...グー」

礼奈「寝てないの分かってるから」

美結「くっw...バレたか」

礼奈「バレバレ」


女性従業員「今日から5日間」

女性従業員「お手伝いをしていただく」

女性従業員「中学生の方々ですˆ ˆ」

礼奈「よろしくお願いします」

美結「...よろしくお願いします」

高齢者達の中には、

微笑む人や無愛想な人、色々な人がいた。

美結「...」

そこへ制服を着た短髪の少女が入ってくる。

美結「...?」

レザーボタンの髪飾りに十字架と白薔薇の校章。

見たことがないオシャレな制服に目を奪われる

容姿端麗で子供ながらどこか気品を感じる。

美結「(小学生...?)」

美結「(なんでここに...?)」

美結「(誰かの孫?)」

気になる美結は立ち尽くす。

他の声も耳に入らず...

礼奈「たけちゃんってば」(服を引っ張る)

美結「...あっ、ごめん」

女性従業員「行きましょうか」


色んな部屋に案内され、工程を教わる。

あの少女が気になる美結は考え込んでいた。

礼奈「ちゃんと話聞いとった?」

美結「う、うん」


昼食の時間になって...

女性従業員「テーブルを布巾で拭いてください」

美結と礼奈は二手に分かれて

高齢者達の広いテーブルを拭く。

美結「...」

緊張して恐る恐る拭く美結を見て

苛立つ高齢者女性は布巾を奪い取ると

自らテーブルを拭く。

美結「?...」

高齢者女性「日が暮れる」

美結「っ...」

その言葉に鋭い棘が刺さる。

女性従業員「次は、これを運んでください」

暗い表情でテーブルに配膳する美結。

高齢者女性「ありがとうˆ ˆ」

美結「...」

他の人達の優しさに微笑む余裕も無かった。


美結「...」

礼奈「大丈夫〜?」

美結「...うん」

礼奈「しっかりしてよ」

すると、他の部屋から出て来るあの少女。

美結「っ...」

美結は立ち止まる。

礼奈「どしたん?」

美結「見てあの子」

礼奈「...あの子が何?」

美結「誰かの孫かな?」

礼奈「さあ?」

美結「だって小学生がここにいるって...」

礼奈「気になる?」

美結「一緒に話しかけようよ」

礼奈「うちは結構」

美結「えー...」


(♪歩いてく〜 歩いてく〜)

高齢者達と一緒にテレビを観る美結と礼奈。

美結「...」

高齢者男性「今日も暑いね〜...」

少女「ええ...厳しい暑さですねˆ ˆ;」

美結「っ...?」(振り向く)

高齢者男性「生きられるか分からん(笑)」

少女「いえいえ...そう仰らないで...; ;」

少女「どうかお大事になさってくださいませ」

美結「(何この子...小学生とは思えない)」

美結「(大人みたい...)」

余計に気になる美結。


女性従業員「お疲れ様でしたˆ ˆ」

女性従業員「明日からは朝に来てください」

美結•礼奈「はい」

女性従業員「また明日よろしくお願いします」

美結•礼奈「ありがとうございました」

介護施設を出た美結と礼奈は自転車に乗る。

礼奈「じゃ、また明日」

美結「うん」

礼奈「ばいば〜い」

解散後、美結は帰り道もあの少女が過る。

美結「(あの子は何だったんだろう...)」


2日目の朝...

介護施設の入口に立って高齢者達を迎える

従業員達と美結と礼奈。

その横には、あの少女もいた。

女性従業員達「おはようございますˆ ˆ」

少女「お早う御座いますˆ ˆ」

礼奈「おはようございます」

美結「...おはようございます」

美結「(どういうこと...?)」

高齢者男性「おはよう!べっぴんさん」

それは少女に言っていた。

少女「ˆ ˆ...お早う御座います」

美結「...」


美結「やっぱおかしい...」

美結「あの子もチャレンジウィーク?」

美結「でも小学生だよ?」

礼奈「そんなに気になるなら話しかけたら?」

美結「一人じゃ無理だよ」

美結「お願い!一緒に話しかけて」

礼奈「いやだ」

美結「...」

同性ならもっと話しかけやすいと思う美結。


高齢者女性「昨日プールに行ったんだけどね」

高齢者女性「いい運動になったのよ」

少女「それは素晴らしいですねˆ ˆ」

美結「...」

視線を送る美結に見向きもしない少女。


休憩時間...

美結「...っ」

部屋で一人作業をしている少女が目に入る。

少女「...」

美結「(話しかけるなら今...)」

美結「(でも...なんて話しかけたらいいんだ...)」

美結は勇気を出して話しかけようとするが

緊張で鋭い目つきになる。

その時、振り向く少女と目が合う。

美結「っ...」

少女「...」

美結の表情から不機嫌だと察する少女は

気遣って目を逸らす。

美結「...っ」

少女に無視されたと受け止めた美結は傷つき

怒りが滲み出てくる。

そして少女が去ろうとした時...

美結「おい」

少女「っ...」

少女は驚いて立ち止まる。

美結「シカトしてんじゃねぇよ」

少女「...申し訳御座いません」

美結「ってか、なんでお前ここにいんだよ」

少女「ボランティア活動で来ています」

美結「小学生で?」

少女「...中学生です」

美結「は?中学生?!」

美結「どう見ても小学生じゃんw」

美結「子供でちゅね♪」

少女「...」

少女は去って行く。

美結「何も言い返せねぇのかw」

美結「お前の制服の校章、変なデザインだなw」

美結「変な学校w」

その時、少女は立ち止まる。

少女「......」

美結「マジでウケるんですけどw」

少女「...ふざけんなよ」

別人の声に変わる少女。

美結「...」

少女「...」

振り向いた姿は悪魔のようだった。

美結「っ...」

それは、落雷したように。

少女「...」

少女はゆっくりと美結に近付く。

美結「...」

全身に鳥肌が立つ美結は後退りする。

少女「...」

美結「...っ」

足を止めない少女に美結は走り去る。


礼奈に助けを求めようと休憩室へ逃げ込む美結。

しかし、そこに礼奈の姿はない。

美結「っ...」(ガラガラ...)

美結は急いで部屋の戸を閉めると強く押さえる。

美結「...」

来ないことを必死に願う美結。

美結「...」

聞こえない足音に安心して戸から手を離す。

美結「(...怖)」

美結「(普通じゃない...)」

その瞬間...

(バッ!)

戸が開けられる。

美結「っ...!」

心臓が止まりそうになった時、礼奈だと分かる。

美結「...良かった」

礼奈「なんで閉めるん?」

美結「ヤバいことになったんだよ...」

美結「早く入って...!」

礼奈「何?」

急いで礼奈を部屋に入れて

戸を閉めようとした瞬間

美結「っ!!」

そこには、微動だにしない少女の片目。

美結「いやあああ!!」 

礼奈「うわっ!」

(バンッ!)

戸を閉めた美結は強く押さえる。

礼奈「何...?!びっくりした...」

美結「...」

美結「見たよね...今の...」

礼奈「何を?」

美結「...目」

礼奈「目?」

美結「今...ここに片目が...」

礼奈「は?...」

礼奈は戸を開ける。

美結「っ...」

礼奈「...誰もいないけど?」

美結「いや...本当にいたんだよ...アイツが...」

礼奈「アイツって?」

美結は礼奈にさっきの出来事を話す。

礼奈「はぁ...何しとん...」

美結「でもさ...なんでいきなり怒ったんだろ」

礼奈「ガマンしてたんじゃない?」

美結「"お前の校章変だな、変な学校"って」

美結「言ったら急に立ち止まったんだよ」

礼奈「どんな校章?」

美結「十とかハトとか...影もあった」

礼奈「銃?あの鉄砲の?」

美結「いや、漢字の十みたいなやつ」

礼奈「...それって十字架?」

美結「分からない」

礼奈「たぶん合っとるよ、宗教の学校だと思う」

美結「え、そんな学校あるの?」

礼奈「そういう人にはバカにしたらヤバいって」

礼奈「聞いたことがある」

美結「...」

礼奈「その子に謝ってきたら?」

美結「...許してくれるかな」

礼奈「さあね...」

美結「怖い...ついてきて...」

礼奈「自分がやったことじゃろ?」

礼奈「一人で行きなよ」

美結「殺される...」

美結「あの子、普通じゃないよ...」

美結「さっきの目ピント合ってなかったし...」

美結「目が...真っ黒だった...」

礼奈「...」


休憩時間が終わって...

高齢者達の部屋に戻る美結と礼奈。

そこに少女の姿はない。

美結「...」

離れた位置に座っている礼奈に不安の美結。

美結「(早く帰りたい...)」

美結「(礼奈ちゃんまで殺されるかも...)」

美結「(こっそり一緒に逃げ出そうかな...)」

美結「...っ」

振り向くと、戻ってきている少女。

血の気が引く美結は俯く。

美結「...」

恐る恐る再び振り向くと

高齢者に優しく微笑んでいる少女。

さっきの姿が幻のようだった。


女性従業員「お疲れ様でしたˆ ˆ」

礼奈「ありがとうございました」

美結「...ありがとうございました」

美結•礼奈「...」(介護施設を出る)

礼奈「...謝ったん?」

美結「いや、謝るタイミングがなかった」

礼奈「明日ちゃんと謝りなよ」

美結「うん」


3日目の休憩時間...

美結は思いきって少女に声を掛ける。

美結「...あの」

礼奈は隠れて美結の様子をうかがっている。

礼奈「...」

少女「...」

少女は美結に見向きもしない。

美結「昨日はひどいこと言ってごめんなさい...」

少女「...」

美結「本当にごめんなさい」

少女「...」

少女は無言で去る。

美結「っ...」

礼奈「あーあ...相当怒ってるね〜」

美結「...もう帰りたい、やめたい」

礼奈「まだ3日目よ?」

美結「...」

礼奈「しょうがない、あと1週間頑張ろ」

美結「頑張れない...」


その後...

カメラを持って介護施設に来た男性担任。

男性担任「撮るよ〜」

男性担任「こっち向いて〜」

男性担任「はいチーズ」

礼奈「...」

美結「...」

美結はカメラに目線を合わせず

無表情でピースをする。


翌日も美結は少女に謝罪を続けるが

目を合わせてくる様子も無かった。


チャレンジウィークは最終日になって...

最後の時間は高齢者達と思い出を作る

わなげゲームだった。

高齢者女性「それっ!」

高齢者女性「あぁ〜...」

女性従業員「入りませんでした〜...」

女性従業員「次、お二人さんどうぞ!」

礼奈「...先どうぞ」

美結「いや、いいよ」

礼奈は輪を投げる。

礼奈「あ〜...」

高齢者達「あぁ〜...」

女性従業員「惜しい!」

美結「...」

礼奈「はい、どうぞ」

礼奈は美結に輪を渡す。

美結「...っ」

美結は思いっきり輪を投げるが

全く届かず目の前で落ちる。

女性従業員「あ〜...」

高齢者達「...」

礼奈「全然届いてないじゃん」

美結「w...」(少女へ視線を向ける)

少女「...」

こっちを全く見ていない少女に

締め付けられる胸。

美結「...」

女性従業員「次どうぞ!」

女性従業員は少女に輪を渡す。

少女「はいˆ ˆ」

高齢者男性「頑張れ〜!」

美結「...」

少女は輪を上手に投げてポールに通す。

女性従業員達「おぉ〜!」

高齢者達「おぉ〜!」

礼奈「おぉ〜」

少女に拍手をする皆。

高齢者女性「上手だね」

高齢者男性「やっぱり若いから」

美結「...」

美結は目を背けていた。


女性従業員「お二人さん」

女性従業員「5日間ありがとうございました!」

高齢者達は美結と礼奈に笑顔で拍手をする。


女性従業員「お疲れ様でした」

美結•礼奈「ありがとうございました」

女性従業員「ありがとうございましたˆ ˆ」

美結「...」

介護施設を去る美結は未練しか無かった。


そして夏休みが終わり...

『今日一番運勢が悪いのは...ごめんなさい💦』

『おひつじ座のあなた...😢』

美結「...」


学校の休憩時間...

女子生徒➀「...」

女子生徒②「...」

美結「...」

(バチッ!)

美結「っ...」

突然、すれ違った女子生徒2人に頬を叩かれる。

女子生徒達「ハハハwww」

美結「...」


男子生徒➀「炎と森のカーニバル♪」

男子生徒➀「ミイラ男も踊ってる〜♪」

美結「...先生、保健室に行ってもいいですか」

英語の先生「はい、どうぞ」(用紙を渡す)

男子生徒②「うわっ!アイツまた保健室かよ!」

男子生徒②「サボりじゃ〜」

美結「...」、


ある日の放課後...

事件は起きた。

美結「ああああああああ!!」

ストレスが爆発して癇癪を起こした美結。

男子生徒➀「こっち来い!」

男子生徒➀「面白いことになってんぞwww」

面白がって美結の教室へ見に行く生徒達。

廊下の窓に集う数十人の生徒達に貶され...

女子生徒➀「逃げて!危ないよコイツ!」

女子生徒②「早く早く!」

椅子をかつぐ美結は女子生徒を追いかける。

女子生徒③「キャー!w」

美結「お前ら全員死んじまえ!!」

女子生徒➀「は?」

女子生徒②「テメーが死ねや」

(バシッ!バシッ!)

美結「っ...」

不良女子達に暴力を振られ、嗤い声が響き渡る。

その中の1人は、唯一小学校から同じで

美結を利用して友達の振りをしていた。


美結「......」

一人になった美結は薄暗い教室で号泣していると

廊下を通る男子生徒達に笑われ、

一人に唾を吐かれる。

その後、後で来た女子生徒達に慰めてもらったが

美結の気持ちは変わらず。

黒板に"死にます、貴様ら一生恨む"と

書いた紙を貼り付けて教室を去る。

その後、紙を見た不良女子は腹を立て

黒板から取り外すと美結を探し回る。


廊下で保健室の先生に

助けを求めて座り込む美結を

見つけた不良女子は追い詰める。

女子生徒「何これ」

女子生徒「どういうこと」

女子生徒「なぁ」

美結「っ...」

美結に近付いてくる不良女子。

保健室の先生は急いで美結を中に避難させた。

その後、学年の先生の判断により

美結は"加害者"になった。


帰り道...

自転車で介護施設の前を通る時

入口で話す女性従業員達の会話が耳に入る。

従業員➀「命に別状無かったらいいんですけど」

従業員②「...体に来ちゃったんかな」

従業員➀「やっぱりまだ中学生なんでね...」

美結「っ...」

その言葉に自転車を止める美結は

引き返して女性従業員達に近付く。

美結「...あの」

女性従業員達「?...」

女性従業員➀「あっ!職場体験の子...!」

女性従業員➀「だよね?」

美結「はい...」

女性従業員②「お〜...!」

美結「その子って髪が短い女の子ですか...」

女性従業員➀「そうそう...同じ中学生の子」

女性従業員②「突然倒れちゃってね...」

美結「っ...」

美結「どこの病院に運ばれましたか」

女性従業員➀「〇〇病院...って分かるかな?」

美結「...」

それは聞いたことない病院の名前だった。

美結「どこにありますか...」

女性従業員➀「えっとね...」

美結は経路を教えてもらったが覚えられず

思いきって通行人に聞いて少女の病院へ向かう。


日は暮れだして...

突然、大雨が降り出す。

(ザー...)

傘を持ってない美結。

美結「(どうしよう...)」

見知らぬ景色にどうしようもなく不安が強まる。

(ピカッ!)

薄暗い空に稲妻が光る。

美結「ひっ!...」

(ゴロゴロバリバリッ!)

落雷の音に耳を押さえる美結。

美結「うぅっ...!」

怖くて泣き出した時...

「美結〜!」

美結「っ...」

声に振り向くと、端に止まった車の窓から

覗いてる塾の先生。

美結「先生...助けて...」

塾の先生「傘は?!」

美結「持ってない...」

塾の先生「早く乗って!家まで送るから」

助手席に乗る美結にハンカチを渡す美結。

塾の先生「風邪引いちゃうよ!」

美結「...今、病院に向かってる」

塾の先生「病院?」

美結「知り合いが倒れたって」

塾の先生「えっ...」

美結「だから〇〇病院に行きたい...」

塾の先生「いいけど...お母さんは知ってるの?」

美結「ううん」

塾の先生「お母さんも美結のこと心配するから」

塾の先生「電話して事情伝えとくよ?」

美結「うん」


美結は塾の先生の車で病院へ送ってもらい...

塾の先生「じゃあ、行っておいで」

美結「...」

美結「先生もついてきて」

塾の先生「うーん...今から行くところあるんよ」

美結「...」

塾の先生「美結のお母さんも行くって」

塾の先生「だからもうそろそろ来ると思うよ」

美結「うん」

塾の先生「大丈夫!行っておいで」

美結は塾の先生に手を振った後

中へ入っていった。


(ポタポタ...)

ずぶ濡れの制服から床に滴る雨水。

美結「...」

一人じゃ何も分からない美結は、

不安な気持ちで辺りを見回す。

美結「(急がなきゃ...)」

通りがかる看護師に聞く。

美結「すみません...」

看護師「はい?」

美結「えっと...」

美結「(あの人達に名前聞けばよかった...)」

美結「さっき...」

看護師「?...」

美結「っ...」

美結は介護施設の名前を思い出す。

美結「ふれあい介護施設で」

美結「中学生の女の子が倒れて」

美結「病院に運ばれたって聞いたので...」

美結「その子の...知り合いです」

看護師「お一人ですか?」

美結「えっと...」

そこへ美結の母が来る。

美結の母「びしょ濡れじゃん」

美結にハンカチを渡す母。

美結の母「塾の先生から電話があったけ」

美結の母「知り合いって誰?」

美結「職場体験で知り合った子」

美結の母「違う中学校の子?」

美結「うん、ボランティアの子」

美結の母「仲良くなったん?」

美結「いや、友達にもなってない」

美結の母「え?じゃあなんで来たん?」

美結「...倒れたって聞いたから」

美結の母「あんたが来たらびっくりするで?」

美結の母「友達じゃないのに」

美結「友達になりたいから来た」

美結の母「え〜...」

美結「お願い...ママ」

美結の母「...」


看護師に面会手続きをして

教えてもらった病室に恐る恐る入る美結。

そこにはベッドに横たわっている少女。

少女「っ...」

少女は美結を見て息が止まる。

美結「...」

美結の母「こんにちは」

少女「...こんにちは」

美結の母「大丈夫...?」

少女「はい、問題御座いません」

美結の母「あれ?お母さんは?」

少女「まだ来られてないです」

美結「...」

少女に視線を向けず俯く美結。

そこへ...

(トントン)

女性と幼女が入ってくる。

幼女「おねえちゃま!」

その華やかな雰囲気から違いを感じた。

女性「...?」

美結達を見て立ち止まる女性。

美結の母「あっ...こんにちはˆ ˆ」

女性「どちら様ですか?」

その二人は少女の母と妹だと察する。

少女の母「...何方で知り合われたのです?」

美結の母「えっと...夏休みの職場体験で」

美結の母「知り合ったそうで...」

美結「...」

少女「...」

少女の母「すみませんが、お引き取り願います」

美結「っ...」

美結の母「...」

少女の母「関係者以外の方はお引き取り下さい」

美結「...」


病院を出る美結達。

美結の母「ほらやっぱり」

美結「みゆのせい」

美結の母「何?」

美結「...本当は仲良くなりたかった」

美結の母「なんかあったん?」

美結は初めて母にあの日の出来事を話す。

美結の母「...それは許してもらえんわ」

美結の母「なんでそんなこと言ったん?」

美結「目そらして無視してきたから腹立った」

美結の母「無視って...あんた話しかけたん?」

美結「だまって見てた」

美結の母「話しかけんのに話しかけてこんよ」

美結「でも...あいさつぐらい...」

美結の母「相手に求めたらいけんわ」

美結「大人達には笑顔で話しかけてたから...」

美結の母「ボランティアじゃけ」

美結の母「子供のあんたに話しかけんよ」

美結「子供同士仲良くなれると思った」

美結の母「普通に話しかけりゃ良かったのに」

美結の母「あの子の親もあんたの話を聞いたら」

美結の母「激怒するで」

美結「...」

美結の母「もう仲良くなれんわ」

美結「...っ」

後悔する美結の頬に涙が伝う。


少女の妹「みて!」

テディベアを見せる妹に微笑む少女。

少女の母「貴女はいつまで足を引っ張るの?」

少女「...」

少女の母「昨年から立て続けに負担を掛けて...」

少女の母「心の乱れが表れているのでしょう」

少女の妹「...?」

少女の母「お父様もお怒りになられているわ」

少女の母「これ以上、宮林家に泥を塗らないで」

少女「...申し訳御座いません」

少女の母「参りますよ」

少女の母は妹の手を引いて病室を出る。

幼女「おねえちゃま〜!ばいばい!」

少女「ˆ ˆ

病室の扉が閉まった後、笑顔が消える少女。

少女「...」

生まれた頃から両親が大切にしているのは

娘ではなく名誉。

学校でも宗教の洗脳に感情が閉ざされていた。

そんな中、忘れられていたであろう頃に

倒れた自分へ遠くから大雨に濡れて

会いに来た美結。

初めて心底の温もりを知った時だった。


翌日...

相談室登校になった美結は

帰る前、職員室の前に立ち尽くしていると...

ショートカットで赤紫の眼鏡の

体操服の女子生徒が近付いてくる。

女子生徒「...何しとん?そんなところで」

美結「っ...」

その女子生徒は、

数ヶ月前の全学年体力テストの日

タイプで気になっていた後輩だった。

美結「...先生を待ってます」

女子生徒「敬語使わんでええよ、先輩なんだし」

美結「あっ...そうだよね...w」

女子生徒「友達になろ!」

美結「っ...うん!」

女子生徒「うちはトマト、よろしく」

トマト「友達のしるしに文房具交換しよ!」

美結「いいよ!」

後輩の鉛筆と美結のシャーペンを交換する。

夢のようだった。


その後...

トマトが住む古びたコーポに連れられた美結。

しかし、中から響き渡るトマトの

父の罵声に怯える美結は怯えて去った。

そこへ美結の名前を大声で叫んで

自転車で追いかけて来るトマト。

トマト「みゆー!!」

美結「っ...」

トマト「はぁ...はぁ...本当ごめん...」

トマト「空手の習い事忘れとったんよ」

美結「そうだったんだ...」

トマト「でも大丈夫!公園行こ!」


中学校の近くの公園に遊びに来て...

トマト「何する?」

美結「ようかい体操第一踊ろ!」

トマト「なにそれ?」

美結「えっ、知らないの?今流行ってるよ」

美結「マネして!」

トマト「...こう?」

美結「www」

トマト「www」


それから美結とトマトは、

毎日学校でも遊ぶようになり...

トマト「あれ?保健室の先生いない」

トマト「一緒にベッド隠れよ!

トマト「シーッ...」

美結「っ...///」

保健室の先生「あっ!いけません!」

保健室の先生「ベッドに隠れちゃ!」

トマト「へへっw見つかったw」

美結「(みゆまで...)」

美結「(でも...いいや)」

美結にとってトマトは一人の友達だった。


男性担任「今月の修学旅行、皆で行こう」

美結「...行きたくないです」

男性担任「一生の思い出じゃけ」

美結「...」

美結の母「...」

保健室の先生「...」

男性担任「皆といなくてもいいから」

男性担任「行くだけ行こう」

美結「...行くぐらいなら死にたいです」

その言葉に真剣な表情になる男性担任。

男性担任「...武田さん」

男性担任「それは言ったらいけん」

男性担任「言っていいこと悪いことがある」

美結「...」

深刻になる空気。

結局、美結は修学旅行に参加することになった。


トマト「修学旅行か、いいなー」

美結「トマトも来年行けるじゃん」

美結「...みゆがいないのさびしい?w」

トマト「うん」


修学旅行の日...

予定通り、自由行動も

保健室の先生と行動する美結。

男子生徒➀「なんでお前一人なん?」

男子生徒②「友達いないからだろ」

美結「...」

駅に帰ってバスから下りた時は...

女性先生「1人1つバッグを持って〜」

女性先生「持ち主に返してあげてね〜」

美結「(はぁ...持ちたくないな...)」

美結「(いやがられるの分かってるし)」

美結「(でも先生に怒られる)」

美結は仕方なくバッグを持つと...

女子生徒➀「うわー...最悪...」

女子生徒②「ドンマイw」

振り向くと、背後から美結を睨む女子生徒3人。

美結「っ...」

女子生徒➀「返して、それうちのなんだけど」

そう言ってきたのは、あの日の放課後

美結を慰めてくれた女子生徒だった。

美結「...」

恐る恐るバッグを渡すと、奪い取る女子生徒。


数日後...

トマト「おかえり!みゆ」

美結「ただいま」

トマト「遊ぼー」

美結「うん!」

昼休憩、学校を探検する美結とトマト。

トマト「先生!手伝うよ」

美結「いいの?」

トマト「みゆ!一緒に手伝うよ!」

いつも一緒にいる二人を見て感心する先生達。

保健室の先生「ふふっ、仲良しだねˆ ˆ」

美結「...」

美結はトマトの横顔を眺めていた。


ある日の午後学活のことだった。

保健室で突然、美結の膝に座って

自分の胸を触らせるトマト。

美結「っ...」

トマト「やろ?」

美結「え?」

トマト「来て」

美結の手を引くトマトに振り向く保健室の先生。

保健室の先生「ちょっと、二人でどこ行くの?」

トマト「トイレ」


職員室前のトイレに連れられた美結。

美結「...何するの?」

トマト「分かってるでしょ」

トマト「女と女のアレ」

誘いの予感は的中して

ここではマズいと個室に入らせる。

トマト「やろ」

美結「待って、その前に...」

美結「私のこと好きなの?」

トマト「...うん」

美結「じゃあ、ちゃんと言って」

美結「好きって」

トマト「...」

トマト「先輩、好きです///」(顔を隠す)

美結「っ...」

美結「私も...体力テストの日から気になって...」

美結「ずっと見てた」

トマト「え、マジ?w」

美結「うん」

トマト「二人だけのヒミツね」

美結「うん...ヒミツね」

美結「キスしていい?」

トマト「うん」

美結「...舌入れていい?」

トマト「いいよ」

目を閉じて恥ずかしげにつむるトマトの唇に

ぎこちなくキスをするが

歯が当たり勇気がなくて舌を入れられず。

トマト「...」

その後、二人は激しく抱き締め合い

トマトに胸を撫でられる美結。

トマト「あっあぁん...」

美結「っ...」

トマト「ほら...声出して...あっあぁん...」

美結「あぁ...んっ...」

何もかも自棄の美結はトマトに愛情を尽くす。


それから毎日放課後になると...

トマト「シーッ...だよ?」

美結「うん...」

(ドンッ!)

トマト「何やってんだよ!www」

美結「ごめんwww」

人影ない場所の床に横たわるトマトに乗って

首筋にキスをする。

トマト「はっ...あぁん...」


美結「親が迎えに来たから帰るね」

トマト「バイバイ」

美結「バイバイˆ ˆ」

トマト「...」

去って行く美結の背中を見ているトマト。


帰り道...

母の車で掛かるCDの曲『生意気』

"どうせ私そうよ 生意気"

"これが私の愛し方なの Ah..."

美結「...」

トマトと愛し合った時間を想い出し

複雑な気持ちになる。


ノートの紙切れで

ラブレターを交換した日もあった。

美結「("先パイ好き♡"って書いてる...///)」


男子生徒➀「うわっ!武田だ」

男子生徒②「きめぇんだよ、シッシッ」

男子生徒達「www」

美結「...」

心が傷んでいるところへ...

トマト「よ」

美結「っ...トマト...」

トマトの顔を見て安心する美結は抱きつく。

トマト「な...何だよ?!気持ち悪いな...!?」

壁際に後退りするトマト。

美結「男子達に悪口言われた...」

トマト「気にすんなよ」

美結「トマト...」

美結「...トマトは私の宝だよ」

トマト「うちは宝じゃないわ!人だわ」


ある日の放課後、階段を下りている時

美結は調子に乗った勢いで

運動シューズ袋をトマトにぶつけてしまう。

トマト「いったっ...」

美結「あ...ごめん...大丈夫?」

トマト「...ッチ」

(ボンッ!)

腹が立ったトマトはスリッパを脱ぎ投げると

階段を下りて去っていった。

美結「っ...」

美結は泣きそうになっていると

同じクラスの女子生徒達とすれ違う。

礼奈「あっ、たけちゃん」

美結「どうしよ...」

女子生徒②「なんかあった〜?」

美結「さっき、後輩にシューズ袋ぶつけて...」

美結「怒らせちゃった...」

礼奈「はぁ...?何しとん?」

女子生徒②「謝りに行きな」

美結「でも...どこか行っちゃった...」

女子生徒➀「探しなよ」


美結「トマト...さっきはごめん...」

トマト「...」

トマト「だからお前はいじめられるんだろが!」

美結「っ...」

初めてトマトに不信を抱いた時だった。


翌日から美結はトマトに態度が冷たくなる。

トマト「みゆー、見て!」

美結「...」

トマト「みゆー」

美結「...何?」


数日後...

トマト「遊ぼ」

弁当を食べてるところに来たトマト。

美結は人影ない階段に呼び出されると...

トマト「お前最低だな」

美結「っ...何が...?」

トマト「付き合ってることチクったろ」

美結「え...言ってないよ?」

トマト「ウソつけ」

美結「本当に言ってない」

トマト「お前と絶交するわ」

美結「信じて」

トマト「...ってか」

トマト「顔的に無理」

トマトはそう言い去った。

美結「......」

美結は掃除時間が始まっても

相談室の先生に声を掛けられるまで

その場で立ち尽くしていた。


翌日...

美結は2つ年下の女子友達"息吹"と同じ

フリースクールへ登校することになった。

女子生徒「みゆちゃん、一緒にゲームしよう」

美結「いや、いいです」

女子生徒達「...」

人間不信の美結は心を開くまで時間が掛かり

塾長からはあからさまに差別され、

息吹も捻くれた美結を見て態度が冷たくなる。

ある日、息吹と些細なトラブルになり

塾長には理不尽に加害者扱いをされ、

情緒不安定な美結は、

生徒達からも避けられるようになった。


美結「......」

ノートにシャーペンで恋愛小説を書くことで

棘のような毎日を忘れさせるのだった。


三学期の終業式の日...

美結は、通知表と春休みの宿題を受け取りに

久々に放課後の学校へ行った。

保健室の先生「美結ちゃん久し振りˆ ˆ」

トマト「みゆ!お前どこ行ってたんだよー!」

美結「っ...」

強く肩をゆすぶってきたのはトマトだった。

別人のように変わる人格に心底は分からず。

保健室の先生「こら!謝りなさい!」

トマト「ごめんなさい」

保健室の先生「先生じゃなくて美結ちゃんに!」

トマト「...ごめんなさい」

美結「大丈夫だよˆ ˆ」


帰り道...

美結は久々に介護施設の前を通る。

美結「......」

あの日を思い出して締め付けられる胸。

(ガチャッ...)

ドアが開いて外に出てきたのはあの少女だった。

美結「っ...」

美結は急いで去ろうとすると...

少女「ご無沙汰しています」

美結「っ...」

背後からの声に立ち止まる。

少女「...あの日は有難うございました」

美結「...」

美結は恐る恐る振り向く。

美結「...はい」

少女「...」

美結「あ、あの...」

少女「...?」

美結「この前は本当にごめんなさい...」

美結「許されないのは分かってます...」

少女「いえ...」

少女「こちらこそ申し訳御座いませんでした」

美結「...本当は、あの時」

美結「仲良くなりたかったんだ...」

少女「っ...」

美結「そういえば...何歳?」

少女「中学2年生です」

美結「えっ!?同じ!」

美結「どこの学校?」

少女「聖心白薔薇学院です」

美結「そんなアニメみたいな学校あるの?!」

少女「...」

美結「...」

美結は改めて少女の名札に視線を向ける。

美結「宮林...なんて読むの?」

少女「あおいと読みます」

美結「へぇ〜...あおいちゃんか、いい名前だね」

葵「...有難うございます」

美結「私の名前は、みゆ!」

葵「宜しくお願い致します」

美結「あのさ、敬語使わなくていいよ」

美結「友達だから!」

葵「...」

葵「ありがとう」

美結「ヘヘっˆ ˆ」

美結「...あ、でも」

美結「あおいちゃんの家族って」

美結「私のこと嫌ってるよね...」

葵「...それは心配しなくてもいいよ」

美結「本当?」

葵「はい

美結「また敬語になってるw」

葵「あっ...ごめんね...」

美結「でもよかった、これで仲良くできる」

美結「よろしくね!あおいちゃん!」

葵「うん...宜しく」

美結「じゃ、あの公園まで競争!」

美結「よーいドン!」

ダッシュで公園へ向かう美結。

葵「っ...」

葵も美結について走る。





───現在───

美結「(...葵と出逢ってなかったら)」
美結「(俺は愛を知れなかったな)」