昨年旗揚げした武藤敬司の新団体「WRESTLE-1」が苦戦している。
エンターテイメントを前面に押し出したWRESTLE-1は、所属レスラーに強引なまでのキャラ付けを行い、スキットやマイクアピールなどを多用して初心者にもわかりやすいプロレスを目指している。
旗揚げ当初は試合カードすら事前に発表されず、当日レスラーによるスキットによって次々とカードが組まれていった。かなり画期的な試みだったが、最近では試合カードがわからないと大会のPRができないためか、そのようなことはなくなっている。
武藤の視線は初めから海外にあった。WWEに次ぐアメリカ第2の団体TNAと提携し、TNAのスーパースターを招聘して相次いでビッグマッチを開催するなど強めの姿勢を見せている。アメリカでのグレートムタの知名度は抜群に高いが、満身創痍の体調のため連戦はできない。真田聖也がTNAの王座の一つ、Xディビジョン王者となったのを期にTNAに遠征し、アメリカマットとの交流を深めている状況だ。7月6日の両国大会ではムタと真田のシングルマッチが組まれ、ムタは滅多に出さないムーンサルトプレスを3連発繰り出して短時間決着を果たした。ムタは真田の活躍にジェラシーを感じていたのかもしれないが・・・問題はそこではない。この両国大会は、アメリカのスター選手を招聘しても観客動員には結びついていないのだ。一体何が原因なのだろうか。
日本では長年、プロレスこそ最強の格闘技だと熱心に信じるファンによってプロレス界は支えられてきた。一番の理由はアントニオ猪木の異種格闘技戦だろう。様々な格闘技の猛者をなぎ倒してきた猪木は最高にカッコよく、ストロングスタイルと呼ばれる強さを前面に押し出したプロレスは大人気だった。もちろんジャイアント馬場のスケールの大きな迫力ある王道プロレスも素晴らしい。
そんな中、なんでもアリのMMAが台頭し、ネームバリューを買われたプロレスラーが請われて参戦するも負け続けてしまい、プロレス人気が下降していく。「プロレスラーは強くないのか」といった失望から、PRIDEなどの総合格闘技に人気が移行してしまった。「初めから勝ち負けが決まっている」などといった、これまでタブーとされた裏情報が明るみに出てきたことも影響があったと思う。
アメリカでは早くからエンタメ化が進んでいた。日本でもWWF(当時)やWCWなどのアメリカのプロレス番組を好んで見るファンもいたが、一般的にはアメリカと同じことを日本でやると失笑が漏れるほど昔は拒絶反応が大きかった。それほど日本は独自にプロレスが発達してきたのだ。
日本でもエンターテイメントプロレスを試みた団体もある。1999年頃、大仁田を追い出したFMWがエンタメ化を図った。一部で評価の声があったものの、おふざけと化した試合に非難が集中。見事にこけてしまった。
2004年ごろから活動を開始したハッスルは日本で最も成功に近づいた団体だと思う。高田モンスター軍と小川直也のハッスル軍との対抗戦を軸としたプロレスは、観客を楽しませるお約束ムーブやドラマ仕立てのサイドストーリーが充実していた。特筆すべきは高田総統のマイク。同じおふざけでも俳優並の演技力で、説得力があった。多くの芸能人も試合に参加することで世間に対するアピール度は高かったものの、結局多くのプロレスファンからは理解を得られなかった。資金繰りがつかず、崩壊してしまったのは誠に残念だ。
DDTは面白ネタを次々と導入してこれまでプロレスを見なかった層にもファンを増やし続けている。プロレスマニアをうならせる好試合もあるため、文句のつけようがない。下品なネタもあるが完成度は高く、ファンを飽きさせない。何よりもレスラー本人が楽しんでいるのが良い。
最近ではプロレスには「魅せる」要素が必要なことが理解されつつある。選手それぞれ個性を持った新日本プロレスが躍進を続けているのも、強さだけではなく、個性的なキャラクターの宝庫ということもあると思う。今、キャラクター化は重要な要素なのだ。
WRESTLE-1がエンタメ路線を進むのは個人的に良い選択だと思っている。普通にプロレスをやってるだけだとほかの団体と差別化できないからだ。しかし、そこで繰り広げられるドラマは、無理やりやらされた感があって違和感が拭えない。一番ひどいのが浜亮太。相撲+ダンスでWWEで人気のあったRIKISHIのネタそのままやらされている。それしか思い浮かばなかったのだろうか。キャラを付けるならオリジナルでなくてはいけない。その点、歌いながら入場する大和ヒロシは好きだ。
最近はZERO1との対抗戦などが始まり熱気のある試合が生まれつつある。幸い有望な若手が多くいるので、バチバチやりあうことでレスラーとしての成長も早まるだろう。さらにTAJIRI率いる旧WNC組の加入により日本人対決を主軸に闘いが展開されるようになりそうだ。
しばらくは闘いに主軸を置いた国内向けの試合を見せつつ、アメリカ要員として真田やTAJIRIなども抱える2通りの路線を共存させるつもりのようだ。現実路線を取ったとも言えるが、ファンには何がしたいのかわからないと映る。
11月にはまたしても両国国技館で興行を行うことが発表された。TNA勢も来るだろう。後楽園ホールも満員に出来ない団体が、いつまでもビッグマッチを連発出来るとは思えない。もはや失敗は許されない。
個人的にはエンタメ路線は賛成だ。しかし、何かの真似事ではなく、独自のエンタメ路線を見つけて欲しいと思う。それに一番エンターテイメントに理解のある武藤が自らドラマに入っていかないのは何故だろう。せっかく武藤に付いて来たレスラーたちに示しがつかないのではないだろうか。アメリカでも通用する日本独自のエンターテイメントを作り出せるのは武藤しかいない。場合によっては外部のライターを採用してもいい。積極的にアイディアを出して、皆を惹きつけるドラマチックなプロレスを見せて欲しい。
はあー今日の記事は疲れた。