その男はコンビニエンスストアにいた。時刻は午後7時。まだ肌寒い4月の夜空の下、帰宅途中のOLや配送業者と共に都内の風景の一部を作っていた。
男は店内をぐるりを見回り、数十秒考えたのちにカップ飲料を手に取った。ミルクの入った甘いカフェラテ。なよなよした見た目通りの甘党なのだろうか。いや、おそらく本日3杯目のコーヒーでカフェイン摂取量や尿路結石への心配を考えたのだろう。煙草を吸っているのに健康に気を遣うのはいささかの矛盾を感じられるが、そこまで丁寧に生きている様子がその風貌から感じることができない。
また男は店内をぐるりと見渡した。レジは2つ、どちらも有人機。しかし店員は1人。そうなるとレジの列に並ぶしかない。男は焦る様子もなく、列の最後尾に並んだ。会計をしているOL、店員のハンコを待っている配送業者。の後ろ、尿路結石予備群の男。開きっぱなしの入り口から入ってくる風がすこし冷たい。OLが会計を終え、業者が店員と話している。男は急いでいるわけではない。途端、
────きゃあ!!
外に目を向けるとおばあさんが入口でこけていた。
、、、っ助けなければ!!男は一瞬考え、すぐにおばあさんの方へ駆け寄る。
その男の手にはカフェラテ。未会計。未会計のカフェラテ。
おいこれ万引き!?
くっ、どうすれば!?
今すぐにおばあさんのもとに行かなければ。しかし外に出たら万引き。思考は時間にして1秒あるかないか。その間他に助けようとする人はいなかった。やはり俺が行かねば!!
そうして男は、入口付近、もうすこしで店外に持ち出せるギリギリ。その地面にカフェラテを置き、店外へ。
俺は万引き犯じゃない!
幸い、おばあさんに問題はなかった。手を貸し起き上がる様子を確認し、事は終わった。肩の手術が控えているのに転んでしまった。という高齢者特有の自分語りをしながら自転車に乗るおばあさんを見送る。お気をつけて。
店に戻った男は、不自然に置かれたカフェラテを拾い上げレジへ。いいか店員、俺は万引き犯じゃねえ!あ、支払いはpeypeyで。おい、俺は人助けをしたんだぞ!はい、レシートいらないです。ありがとうございました。はい。