みなさんは、本能的に無理だと思ったことはありますか?
それは苦手な人や、やりたくない事などではなく、もっと根本的に全身で無理だと感じるアレです。無理だと「思う」というより、「感じる」のほうが正確ですね。
これは私が理性的な大人になって初めてそれを感じた話です。
当時、私はイベント事業に携わっていました。イベントといっても、週末にホームセンターやショッピングモールの入り口付近でやっている携帯会社の乗り換えキャンペーンのアレです。長机に景品を載せているアレです。ポケットティッシュを配っているアレです。皆さんが通り過ぎるアレです。暇な老人を騙し、ゲフンゲフン。
まあ、人を騙すのも、そういう販促をするのも嫌すぎてすぐに辞めましたが。
私は携帯ショップ側ではなくイベント事業の人間でしたから、一か所に留まることはなく、毎日様々な場所を飛び回っておりました。
そんな中でのある日、とあるホームセンターで同じようにポケットティッシュを配っていると、突然目の前に大きな影が差しました。物理的でもありました。
そこには、力士がいたのです。
自分よりも遥かに大きな存在。上にも横にも。おそらく身長は2m近くあったのではないでしょうか。そして私が両手使っても一周できない程の肉体。決して、太っているだけでなく、確実に“そういう”戦闘スタイルに特化した身体。
それを見た瞬間、本能が「逃げろ!!」と叫び出したのです。
相手が何をしているわけでもない。こちらに敵意を向けているわけでもない。しかし、私の身体は竦んで言うことを聞かない。否、逃げることすら命令できないのだ。「逃げろ!!」と叫ぶ割には、心臓を動かそうともしない。
恐怖というにはあまりにも穏やかで静か。
ドンキで屯しているヤンキーは理性的な恐怖だ。でかい声を出して、恫喝してくる。しかし生死という点では、それほど危険性が高いわけではない。殴られても死なないだろうと理解しているのだ。
しかし目の前にいる人。私と同じヒトだとは思えない彼に対して、理性的な恐怖はない。ただ今は、彼の領域内である。ここでは、生殺与奪の権利は彼にあることを理解してしまっている。
幸い、ここが刃牙の世界線ではなかったので私は無傷だが、本能的に無理であることを理解させられた一幕であった。