とうに日は沈み、曜日が変わろうとしている。私はいつも通り部屋を真っ暗にして床に就く。
どうも私は電気をすべて消さないと眠れないようだ。安全面を考えると豆電球程度は付けていたほうが良いのだろうが、都会は夜になっても明るいため、窓から差し込む光で十分だ。もっとも、災害時には電気が付いているのかも不明であるため、懐中電灯を手元に置いておくのが最適と言える。
床で目をつむっていると、瞼と眼の間に無数の黒が広がっている。私はこの黒をじーっと見るのが大好きだ。一切の光を許さない、純粋無垢な黒。暗闇。
本来であれば恐怖を感じる方が正しいとは思う。視覚で得られる情報が何もない分、普段より緊張して活動しなければならないからだ。おそらく私も、真っ暗闇の世界に突然置かれたらそうなるのだと思うが、今は自室かつ床だ。文字通り背中を預けている。暗闇を楽しむ余裕すらある。
目を閉じて暗闇をじーっと見てやると、天井も壁もない、ただただ果てしない黒が広がっていることがわかる。そのうちに目がじらつき始め、真っ黒の世界であるにも関わらず、点々とした白が入りだす。その世界は、目の細かいホワイトノイズのようで、だんだんと白が増えていく。
ホワイトノイズをじーっと見てやると、突然、世界が揺れだす。チカチカ、ガンガン、バクバク。そんなオノマトペが聞こえてきそうなほど、激しく、視界だけが揺さぶられる。少しの間揺れていた世界は、次第に収まる。そして凪。白い斑点は消え、真っ暗な世界に戻る。
また、暗闇をじーっと見てやると、今度は別の世界を見せてくれる。光などない暗闇。光どころか、天井や壁は絶対にない。ないはずなのだ。そのはずなのに、暗闇が迫ってくるのだ。視線の先の黒が拡大されて、拡大されながら、近づいてくる。スーッと暗闇の壁が近づいてくる。遠くから、だんだん近くへ。手が届きそうなほど、近くへ。顔のすぐ、近くへ。
近づいてきた壁は、私の鼻に当たると止まった。目の前、すぐ前に闇の壁があることがわかる。鼻が闇に触れているのだ。絶対にありえない状況だ。頭では理解できる、理解できるのだが、鼻に当たっているのだ。
鼻どころか、全身の触覚を刺激されている。なんとも言い表せない、独特な感触が、動いていないはずの指先にある。細い棒のようで少し肉がついているような、硬く鋭いはずなのにポロポロと砂のように零れ落ちてゆく。3cmほどの棒を親指と人差し指で挟んでいる感覚を感じる。
金縛りとは違うのだが、おそらくこれも夢の類なのだろう。