異体類に似たアシロ科仔魚(稚魚図鑑に未掲載)の同定を巡って:緑色箇所を修正・追記 | ウッカリカサゴのブログ

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日本産魚類の仔稚魚のスケッチや標本写真、分類・同定等に関する文献情報、
趣味の沖釣り・油画などについての雑録です。

この↑異体類(ダルマガレイ類やヒラメ類など)に酷似する仔魚は、屋久島で写真家の高久 至さんが撮影し、“トンガリシャクレガレイ!?の幼魚”として記事(2014年04月21日)にされたもの。

 

この後屈曲期仔魚は、伸長した背鰭第1条、しゃくれた吻部形態、体高のある体形などから、Evseenko and Okiyama (2006) がアシロ科ヒメイタチウオ属の Pycnocraspedum squamipinne として記載したニューギニア産の仔魚にほぼ一致する。

 

高久さんの仔魚は、背鰭・臀鰭条数(それぞれ99本, 71本)から、日本に分布するヒメイタチウオ属ではヒメイタチウオ P. microlepis(背鰭条数 95~104本; 臀鰭条数 66~77本)に該当する。

なお、沖縄舟状海盆から知られる稀種オオヒメイタチウオ P. fulvum とは背鰭・臀鰭条数 (それぞれ81本, 63本)がかなり異なる。

この前屈曲期仔魚(6 mm SL)↓は久米島海域で2021年10月1日22:15に峯水 亮さんが撮影したものである。

https://www.instagram.com/p/CUkNFbtBJDZ/
 

屋久島で高久 至さんが撮影した上記仔魚と同じ種の若いステージの可能性が高い。

 

ヒメイタチウオ属ではなくクロウミドジョウ属 Luciobrotula 
ところが最近(2023-03-16)、Matthew G. Girard, Bruce C. Mundy, Ai Nonaka & G. David Johnson (2023) 〔以下、Girard et al. (2023) 〕は、ハワイおよびフロリダ海域で水中撮影された仔魚の写真と捕獲仔魚について、形態学的(透明化染色処理)検査と分子配列の両方の特徴に基づく検討結果から、この異体類形の仔魚はヒメイタチウオ属ではなく、クロウミドジョウ属であるとした(詳細な根拠については論文を参照されたい)。

Nielsen and Evseenko (1989) は、アシロ科スイセイアシロ属 Benthocometes robustus の個体発育において、体前方の背鰭要素の喪失とそれに伴う背鰭起点の後方移動という珍しい現象を明らかにした。

COIを解析した結果(Girard et al. (2023) のFig. 4)、スイセイアシロ属はクロウミドジョウ属の姉妹属であることが判明しており、クロウミドジョウ属でも同様のこと(体前方の背鰭要素の喪失とそれに伴う背鰭起点の後方移動)が起きている可能性があると推察しているのである。

発育に伴って脊椎骨(筋肉節)数や背・臀鰭条数が減少する例がカクレウオ科カザリカクレウオ Carapus mourlani の Tenuis 期仔魚で知られているが(Parmentier et al., 2004)、アシロ科でも認められることを今回初めて知り、驚いた。

Girard et al. (2023) による検討の結果、Evseenko and Okiyama (2006) が記載したニューギニア産の仔魚はクロウミドジョウ L. cf. bartschi と暫定的に同定された。

また、ハワイ海域の仔魚はクロウミドジョウ L. bartschi または L. cf. bartschi (L. lineata の標本が追加で捕獲・塩基配列が調査されるまで) に同定された。

さて、この前屈曲期仔魚↓は小笠原海域で2020年10月3日(奇しくも上記の久米島で撮影されたのと年は違うがほぼ同じ日付)に今井寛治さんが撮影したもので、恐らくクロウミドジョウに同定される仔魚である。

肛門直下に長い肉質フィラメントが見られる点で、上記の久米島の仔魚とは異なっている。





 


Girard et al. (2023) の検討結果から、ヒメイタチウオ属 Pycnocraspedum の仔魚は未知であることが判明した。その未知仔魚はシオイタチウオ属 Neobythites の場合と同様に、成魚と全体的に似ている可能性があり、これらの仔魚を正しく同定するためには、遺伝子型と表現型(形態)の両方を使用することが推奨されている。

稚魚図鑑第二版の“シオイタチウオ亜科(クロウミドジョウ属?)タイプ仔魚の帰属修正
Girard et al. (2023) では、日本産稚魚図鑑第二版でアシロ亜目の“シオイタチウオ亜科(クロウミドジョウ属?)タイプ1~4”として記載された4タイプの仔魚(沖山, 2014)は、フサイタチウオ亜目フサイタチウオ科(属不明)のものの誤同定として指摘している(詳細な根拠については論文の記載を参照されたい)。

結論として、
沖山(2014: 434)の“クロウミドジョウ属 Luciobrotula" type 1 および type 4 を“フサイタチウオ科 Bythitidae type 1”に修正。
沖山(2014: 434-435)の“クロウミドジョウ属 Luciobrotula" type 2 および type 3を“フサイタチウオ科 Bythitidae type 2”に修正。

感想と提言
Girard et al. (2023) のFig.4を詳細にみると、

・本村(2023)の日本産全魚種リストで、ゲンゲ科とタウエガジ科との間に置いてあるニセイタチウオ科 Parabrotulidae(ニセイタチウオ属 Parabrotula)がアシロ目に入っていて(日本産ニセイタチウオ属はニセイタチウオとサガミニセイタチウオの2種)、フサイタチウオ科に近いこと

旧ソコオクメウオ科 Aphyonidae のソコオクメウオ属 Barathronusコンニャクオクメウオ属 Aphyonus の系統的位置、

が興味深い。

追記:肛門直下にある長い肉質フィラメントがどんな役割をしているのか(内部構造が見られる)、根本から千切れても問題ないのか、その有無が種の違いを示すものか、とても気になる。
 


Evseenko and Okiyama (2006) 〔お二方とも既に故人〕による記載を今後の稚魚図鑑に引用し、この論文を Girard et al. (2023) とともに引用文献リストに加えることが必要だと思う。

アシロ目の仔稚魚に遭遇した際は捕獲し、遺伝子解析することが望まれる。

謝辞
本記事を書くにあたって、写真の転載・掲載を快く承諾して下さった高久 至さん、今井寛治さん、峯水 亮さんに感謝します。

参照文献
・Campbell M.A., J.G. Nielsen, T. Sado, C. Shinzato, M. Kanda, T.P. Satoh & M. Miya (2017) Evolutionary affinities of the unfathomable Parabrotulidae: molecular data indicate placement of Parabrotula within the family Bythitidae, Ophidiiformes. Mol Phylogenet Evol 109:337–342.

 

・Evseenko, S.A. & M. Okiyama (2006) Remarkable ophidiid larva (Neobythitinae) from New Guinean waters. Ichthyol Res 53(2): 192–196.

・Evseenko S.A., N.V. Gordeeva, Y.Y. Bolshakova & S.H. Kobyliansky (2018) Morphology and molecular phylogenetic relationships of Barathronus multidens (Ophidiiformes: Bythitidae). Cybium, 42(2): 137-141.


・Fahay, M.P. & J.G. Nielsen (2003) Ontogenetic evidence supporting a relationship between Brotulotaenia and Lamprogrammus (Ophidiiformes: Ophidiidae) based on the morphology of exterilium and rubaniform larvae. Ichthyol Res 50(3): 209–220.

Girard, M.G., B.C. Mundy, A. Nonaka & G.D. Johnson (2023) Cusk-eel confusion: revisions of larval Luciobrotula and Pycnocraspedum and re-descriptions of two bythitid larvae (Ophidiiformes). Ichthyol Res (2023). 早期公開
https://doi.org/10.1007/s10228-023-00906-4

・Møller P.R., S.W. Knudsen, W. Schwarzhans & J.G. Nielsen (2016) A new classification of viviparous brotulas (Bythitidae) – with family status for Dinematichthyidae – based on molecular, morphological and fossil data. Mol Phylogenet Evol 100:391–408.

・本村浩之(2023)日本産魚類全種目録.これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.Online ver. 19. 
https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/jaf.html

・Nielsen, J.G. & S.A. Evseenko (1989) Larval stages of Benthocometes robustus (Ophidiidae) from the Mediterranean. Cybium 13:7–12.
https://sfi-cybium.fr/sites/default/files/pdfs-cybium/05-Nielsen%5B131%5D7-12.pdf

・沖山宗雄 (1981) 稚魚分類学入門 ⑧アシロ目幼期と Incertae sedis. 海洋と生物,15, Vol.3, No.4: 258-262

・沖山宗雄(2014)アシロ目 Ophidiiformes, pp.421-446. in 沖山(編)日本産稚魚図鑑第二版. 東海大学出版会、秦野.

・Parmentier, E., D. Lecchini & P. Vandewalle (2004) Remodelling of the vertebral axis during metamorphic shrinkage in the pearlfish. J. Fish. Biol., 64: 159-169.
https://www.researchgate.net/publication/227696579_Remodeling_of_the_vertebral_axis_during_metamorphic_shrinkage_in_the_pearlfish

 

参照写真

屋久島で撮影された仔魚の別ショット

 

Michael Walker 2020-07-12 West Palm Beach(フロリダ州南東部)沖にて撮影

https://www.facebook.com/photo.php?fbid=308665576943924