風で吹き寄せられ,漁港内の海面に浮遊していたゼリー状の卵帯。
容器の幅:約20cm
卵房内ですでに孵化していて,通常2個体ずつ仔魚が入っている。
刺激を受けると,仔魚が出てくる。
全長1.8 mm 170718 千葉県岩船
形態的特徴(体表の網目模様)からアンコウ目の1種と思われるが,
既知のキアンコウ Lophius litulon より仔魚のサイズが非常に小さい。
アンコウ Lophiomus setigerus (卵,孵化仔魚は未知)の可能性も考えられる。
ちなみに「東シナ海・黄海の魚類誌」によると,産卵期は以下のとおり。
キアンコウ:2~5月
アンコウ:5~11月
卵黄を吸収しつくすまで,しばらく飼育を試みる予定。
DNA分析用にエタノール保存した。
以下,検討結果を追記予定
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●追記1(2017/7/19)
卵黄が吸収されつつあり,全長 2.1 mm になった。体幹部の黒色素胞が特徴的。
どうやら石田根吉さんがかつて見つけたもの↓と同じ種か同属種のようだ。
●富戸の羽衣・再び (8/22)
2004/09/14 記
http://www.onsenmaru.com/log/log-2004/log-040822.htm
卵の大きさは 0.7 ~ 0.8 mm 程度だったとのこと。
アンコウ科のキアンコウ属キアンコウの卵は既知なので,可能性としては
・アンコウ科のアンコウ属(アンコウ),ヒメアンコウ属(日本産種は7種)
・フサアンコウ科(日本産種は1属3種)
・アカグツ科(日本産種は7属23種)
が考えられる。
ちなみに,カエルアンコウ科(3属15種)の卵は,ハナオコゼ属(ハナオコゼ)とカエルアンコウ属(日本産種は12種)のカエルアンコウが既知で,いずれも油球がない(Fahay, 2007)。おそらくカエルアンコウ科の卵は油球がないのではなかろうか。
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●追記2(2017/7/23)
全長2.5mm(↑生時に撮影)
↑ホルマリン固定後に撮影
吻(下顎部)がやや伸長し,奇妙な顔つきになりつつある。
筋節数は全部で20位である。
色素胞は黒色素胞のみで,体幹部と消化管の表面にのみ認められる(尾部には認められない)。
キアンコウ仔魚に見られるような早成の伸長鰭条は認められない。
体表に網目模様が認められる。
SS型(タイ産S型) ワムシを与えており,まだ数百個体の仔魚が残っているので,もう少し先までいけるかもしれない。
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●追記3(2017/7/26)
全長2.2mm(↑生時に撮影)
↑ホルマリン固定後に撮影
その後,黒色素胞の分布性状を含めてあまり形態的変化は認めらないが,後頭部の若干の膨出と吻の伸長があるように思える(頭部が前屈したことにより,体長はほとんど伸びないか,むしろやや縮んだ)。体表には依然として網目模様が認められる。
生時,ビーカーの中では静止時,仔魚は頭部を下にして懸垂している。
本日,これ以上の飼育は困難とみて,100個体ほど残った仔魚をホルマリン固定とエタノール保存の標本にした。
情報は少ないが既往知見を総合して推測するに,the アンコウではなく,アカグツ科の可能性が最も高いと思われる。
なお,今回得られた卵帯(孵化仔魚は油球を有する)~仔魚の一連の知見は,(自分で言うのもなんだが,)世界的にみても新しく,貴重なものといえるであろう。
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以下、付記 (2020/7/15)
Allan Connell (2012)によるアカグツ属 オキアカグツ Halieutaea fitzsimonsi (BL III A3) として記載された卵・仔魚の写真・記載内容から、上記の仔魚はアカグツ科のものと確定してよいものと確信するに至った。
http://fisheggs-and-larvae.saiab.ac.za/BLIIIA3%20Ogcocephalidae.htm
ちなみに日本産稚魚図鑑 第二版(2014)では、アカグツ科の仔稚魚の形態について、全長 6.0 mm(体長 4.3 mm)のアカグツ科の1種の屈曲期仔魚(内田,1937:図のみ)が知られるとされている(沖山宗雄)。
内田恵太郎,1937.魚類の浮游幼期に見られる浮泛機構に就て(I).科学,7(13): 540-546.
さて、Allan Connell (2012)の記載によると、卵は卵径 0.84 mmで、径 0.19 mmの油球が1個ある。
孵化すると、仔魚は黒い色素胞で特徴的にマークされ(図C:孵化後1日)、孵化後4日(図E)の仔魚はすでに、鱗状の粗い質感に発達する兆候を示していて、黒い胸部および大きな白い縁のある胸鰭が特徴とのこと。
●参照
故 Allan Connell 博士の Website の閲覧方法について
2020-07-10
https://ameblo.jp/husakasago/entry-12610080848.html