向日葵の咲く丘で | 月見ヶ丘のブログ

向日葵の咲く丘で

序章 中庭にて

空は青く澄み渡り、中庭に植えられた木の下でのお弁当は格別だ。
特に隣には夕がいるのだ。
「玉子焼き貰うねー」
「はい、どうぞ召し上がれ」
「いただきまーす。んぐんぐ」
私が作った玉子焼きを頬張っている少女は加楚 夕(かそ ゆう)。
私のガールフレンドだ。
「こふょははほやひおいひーよ、へひゅ」 (※「この玉子焼きおいしいよ、切」)
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいなぁ」
毎日この笑顔を見るだけで、早起きしてお弁当を作る事なんか苦労を感じない。
私の名前は蒼斗 切(あおと せつ)、この女子高の二年生。
私は学生寮から夕とともに通っている。
それも当然。私は夕と同室だからだ。
「あ。夕、ほっぺにご飯粒付いてるよ」
「んぐ、んぐ。ふぇ?どこどこ?」
「ここ」
そう言って私は夕のほっぺに付いたご飯粒を、ひょいっとすくいあげ、そのまま口に運ぶ。
正面を見ると、夕が顔を真っ赤にして頭から湯気を出している。
ふふふ、かわいいなぁ夕は。
「せ、切」
「なに?夕?」
「えと、その、・・・あ、ありがと」
蚊の鳴くような声でお礼を言ってくる。
・・・か、か、か、かわいすぎっ!
ああ、もうだめだ。我慢できない。
「ゆーう」
「へ?んっ!んーんー」
「ん、ちゅ・・は、ん」
「んん、ん、ぷはぁ」
「ふふふ、やっぱり夕はかわいいねぇ」
「切、からかうのは止めてよね・・・。まったく、いきなりでびっくりしたじゃないか」
「あれ、嫌だった?」
「・・・別に、嫌じゃないけど」
ほんと、かわいいなぁ。
「そういえばさ、切。僕たちが出会ったのもこの場所だったね」
ふと夕が空を見上げる。
空はまるで吸い込まれそうになるくらい深い青が広がっていた。
「ええ、そうだったわね」
あれは今からちょうど一年前のことだった・・・。
そう向日葵が咲き始める頃。