部屋の片付けをしていたら、書類ケースの中から小さな紙片がまとまって出てきた。
もう十年ほど前に、読んだ本や観た映画で気になったフレーズを書き出した覚え書であった。
格言とか至言とは言わないけれど、その時に自分の心に触れた詞群である。
パラパラと見てみたが、何だかこそばゆい感じがした。
センチメンタルな詞が多くて、今よりも若かった自分の恥部を見るような恥ずかしさである。

しかし、そのまま捨て置くのももったいないので紹介していきたい。
やたらと海外ミステリが多いのは、その頃はまっていたからである。
特にディック・フランシスは一冊に一つは詞を抜き出していたような気がする。

1「同情は思慮のある態度だし、憐みの方は無作法ですよ。」(ディック・フランシス『大穴』P160)


2「結局、むなしくつみ重ねた歳月と悲嘆、それだけが私の唯一の財産であり、最大の負債なのだ。」(ジェームズ・クラムリー『酔いどれの誇り』P9)

3「人間の体は、いつも人間を裏切る。」(同書 P112)

4「相手に対する思いやりは、情熱よりも深く長く心を打つ。」(同書 P264)


5「若さはすべてのものに耐えられる。王たちにも詩にも恋にも、すべてのものに。ただ、時のほかには。」(ジェームズ・クラムリー『さらば甘き口づけ』P91)

6「一人の人間のすることは頭も心も身体もすべて関係があるんです。一つ一つの行動が余病を、影響を生むんです。」(同書 P359)


7「人が人にしていることが心を突き刺す。」(ローレンス・ブロック『八百万の死にざま』P290)

8「人は腹をへらしすぎてはいけない。怒りすぎてはいけない、孤独になりすぎてはいけない、疲れすぎてはいけない。」(同書 P400)


9「人生そのものは決して美しいだけのものではないが、そうありたいと願う人生は美しい。」(アッバス・キアロスタミ『そして映画はつづく』P161)



2007年の映画ベストテン発表。
私のベストテンは2007年中に観た映画全部を対象にしているので、2006年以前にロードショー公開された作品も含んでいるあたりが、キネ旬とは異なる。
それと邦画・洋画を一緒にしている点も違う。
別々に作ってもいいのだが、あくまで<自分が気に入った映画>としてベストテンなので、邦洋問わない方が個人的に意味があるのである。

そんなきわめてパーソナルなベストテン。
2007年は映画館で118本の作品を観た。

1「天然コケッコー」
山下敦弘監督はいよいよ円熟してきたなぁと思わせる、至福の映画である。<ひとが立っている><ひとが歩く>という人間の存在そのものが映画なんだと強く感じさせる傑作。主役を演じた夏帆の存在感も非常に大きいと思う。

2「それでもボクはやってない」
社会的訴求力というのは映画の本領ではないにしろ、きわめて力強く豊かに観客の心を揺り動かす作品として上上出来。これは2007年屈指の秀作である。

3「トゥモロー・ワールド」
物語以上に映像表現(長回し)の衝撃的な素晴らしさにめちゃくちゃ興奮する。近未来の寒々したイギリスの風景も魅力的な、SFというより哲学映画というべき作品である。映画ファンで未見の方は必見!

4「デス・プルーフ in グラインドハウス」
ここはあえて「ディレクターズカット」を挙げる(本当は稚気溢れた「USAヴァージョン グラインドハウス」の遊び心を挙げたいところだが、「プラネットテラー」がやや大作感がありすぎるのだ)。タランティーノ得意の長すぎる雑談もいいし、何と言っても潔いラストシーンに鳥肌が立った。2007年の<映画マニアの試金石>映画と言っておこう。

5「バベル」
スケールを大きくしすぎだなぁと思うが、見応え十分のヘビー級人間内省ドラマである。日本編のリアリティのなさにやや白けるが、些細な行動が大きく人生を変えてしまうことになるアメリカ編が白眉である。全体的な構成も巧みで、胸が締め付けられる映画だと思う。

6「ゆれる」
映像の純文学。スノッブな表現の不快さも含めて、西川美和監督の個性の凄さと、それを受けて全く引いていない香川照之・オダギリジョーの演技に圧倒された力強い人間ドラマの傑作である。

7「マッチポイント」
スノッブなニューヨーカーばかりを描いていたウディ・アレンの、一皮向けた人間ドラマの傑作である。個人的に嫌いなスカーレット・ヨハンソンに欲情してしまった(それだけ魅力的に撮られているということ)。

8「ゾディアック」
これまでのデビッド・フィンチャー作品に比すると地味な印象だが、細部にまで凝りに凝った映画の中の映画である。私の周りにこれを褒めたひとがまだ誰もいないのだが、紛うことなき秀作である。

9「檸檬のころ」
ストレートな青春映画として実に素晴らしい。横行している都会の軽薄な青春ドラマがいかに浅薄であるかが分かる。感情表現のタメの上手さが絶妙で、感情移入すること必至の王道青春ドラマの秀作である。

10「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」
佐藤江梨子の強烈キャラがとにかく凄いが、期待したほど彼女の人間性が描き切れていない点が不満であった。しかし、それ以上に永作博美が凄くて、忘れがたい映画になった。

次点
「パフューム ある人殺しの物語」「叫」「16ブロック」「うつせみ」「主人公は僕だった」「300」「ダイ・ハード4.0」「レミーのおいしいレストラン」「ザ・シューター 極大射程」「机のなかみ」


今このベストを見ると、次点の別作品と入れ替えられるものもあるなぁと思うのだが、まぁ昨年末に選定したものをそのままにしておく。
なお、「ワースト」と「DVDで観た映画におけるベストテン」はまた後日発表ということで。
2006年個人的映画ベストテン発表!!
昨年同様、邦洋いっしょくたである。
そして、2006年公開作品というわけでなく、私が2006年に観た作品から選んでいる。
個人的な嗜好が多分に籠もったベストテンになっているはずである。

ちなみに2006年に映画館で観られたのは87本であった。
年々本数が減ってきているのが残念で仕方がない。

ではでは!

1「輝ける青春」
戦後ヨーロッパを舞台にした雄大な歴史ドラマであり、ある一家族を丹念に追った大河ドラマである。映画を観ることの至福にどっぷり浸ることのできる傑作である。上映時間六時間という大作であるが、十時間あってもいい。
2「メルキアデス・エストラーダの三度の埋葬」
熱く乾いた映像で綴られる濃密な文芸作品であり、現代の西部劇でもある。渋い役者たちの名演技を堪能でき
る反ハリウッド的アメリカ映画。その神話的とも言える登場人物たちと中米の風景に引きずり込まれる作品。
3「君とボクの虹色の世界」
登場人物の誰もが自分の精神世界に潜り込みながらも、他人とのコミュニケーションを模索しているというこの極めて現代アメリカ的な市民群像劇は、作者の優しい眼差しによって見事な現代の寓話として成立している。こっそりと自分だけ愛で続けていきたいような小さな至福の映画である。
4「クラッシュ」
これもまた現代アメリカならではの群像劇であるが、こちらは「交通事故」をキーワードにして綴られる<人種差別>にまつわる悲劇的ドラマ。その脚本の緻密な構成に感服してしまう秀作である。
5「かもめ食堂」
ヘルシンキに食堂を開店した日本人女性とその周囲の人々との交流を描くこの映画の魅力は、一言では言い表せない。悠々とたゆたう時間を切り取ったかのような展開と全てを達観したかのように静かな主人公に非常に心を癒されるのである。テーマだとか物語の面白さ以上にその感触を楽しみたい素敵な映画なのである。
6「運命じゃない人」
「かもめ食堂」とは反対に<映画はやっぱり脚本だなぁ>と思わせる作品。圧倒的な物語の構成力と徹底的に観客の予想を裏切っていくその展開の妙味にベロンベロンに酔える、最高に楽しい愉悦の映画である。映画の可能性をまだまだ信じる気にさせる一本なのである。
7「時をかける少女」
アニメ映画ということではなく、よく知られた作品の非常に良く出来た改作・翻案として高く評価したい。タイムリープもののセンス・オブ・ワンダーも実に面白く語られるとともに、主人公の心のひだをデリケートに描き切って、切なさを共有できる点が素晴らしい。青春映画の新しい名作と言っても良いだろう。
8「ライフ・イズ・ミラクル」
エミール・クストリッツァのこの新作もまた限りなく楽しい、映画の中の映画である。故国分断の悲劇をいつもイマジネーション豊かな映像世界に写し撮るクストリッツァはやはり天才なのかもしれないと、今回もまたつくづく思った。
9「そして、一粒のひかり」
コロンビアの一少女の行動を丹念に追うこの作品の、なんと力強いこと。サスペンスフルな展開やどんな状況に陥っても生き切ろうとする人間の強さに圧倒されっ放しの骨太な(というか、面白すぎる)社会派ドラマである。
10「麦の穂を揺らす風」
ケン・ローチはいつもわれわれの胸を深くえぐる。ローチ映画において最近特に目立ってきた革命映画の系譜に位置する一本であるが、本作は時代のうねりに巻き込まれていく庶民たちの悲劇として描かれ、見事に一般性を持ち得た秀作である。
10「カーズ」
「麦の穂・・・」と並べると笑われてしまうが、どうしてもベストテンに入れておきたくて同位にした。ピクサーの作品はどんどん深く楽しくなっていく。このアメリカ文明批判・資本主義経済批判の深さを見よ。

次点
「ヴェラ・ドレイク」「サマータイムマシンブルース」「ある子供」「ヒストリー・オブ・バイオレンス」「ホテル・ルワンダ」「楽日」「グエムル 漢江の怪物」「プロデューサーズ」「エコール」「寝ずの番」

以下昨年に続いてワーストも発表。
書いていて妙に気分がすっきりした。

ワースト
1「美しい夜、残酷な朝」
観たこと自体を忘れ去りたいほどの不快な映画である。オムニバスのコンセプトが何なのかも分からない監督たちの自慰映画。
2「神の左手悪魔の右手」
決して悪くはない原作を徹底的に粗悪化した駄作。あとは言うことなし。
3「ソウ3」
物語がどうこうではなく、実に見難い醜い映画。映像に凝ろうとしてとんでもなく失敗してしまった作品。
4「サイレン」
ずばりトンデモ映画。面白くもなんともない、こけおどしにもなっていない愚作。
5「チェケラッチョ!!」
一歩も想像の域から外れない、ルーティーン通りの青春映画。「ウォーターボーイズ」系を意識し、そこに沖縄やら恋愛やらといった流行と定番の要素を結び付け、取り入れたただけの量産型邦画の典型。これでうまく出来ているなら文句は言わないのだが…。