日大関係者の証言によれば、監督から「最初のプレーで相手のQBを壊してこい」との指示が

あったとされる。

指示された選手Aは、有望選手ではあるが、何らかの理由で試合出場から遠ざかっている状

態にあり、その指示を実行すれば試合に出してやる旨、指導者から言われていたようだ。

もしそれが真実なら、選手Aの常軌を逸した行動の全てが納得できる。

与えられた使命を全力でやっただけだ。

コーチや他の選手は、Aが退場処分になりベンチに引き上げてきた際に、「お疲れさん」と言

わんばかりにポンポンと身体を叩いていた。

Aが指導者から何を言われ、何をやったのか選手は知っていたのだ。

 

Aが問題を引き起こしたわけだが、なぜAだったのだろう?

選手は他にいくらでもいるわけで、なぜBやCではなくAが「選ばれた」のか。

ひとつは、出場機会に恵まれていなかったこと。バーター取引の材料があったのだ。

もうひとつは、これは推測になるが、彼が上長の命令ならなんでもきく「素直な性格」の

若者だったこと。体育会系組織においては殆どそうだが、上長者の言うことは絶対だ。

その中でも、とりわけ組織や上長者に対して「忠誠心が強かった」のがAだったのだろう。

指導者たちは、それを知った上でAを「利用した」のだ。

 

Aにすれば、試合出場と相手QB潰しのバーター取引を提示されれば、断れない。

もしやらなければ、自分が今後組織内でどのような扱いを受けるか自明だ。

出場機会は完全に失われ、先の退部者20名と同じ運命が待っている可能性が高い。

少なくともAはそのように考えるだろう。

指導者は後になってそんな意図はなかったと弁明するだろうが、「Aはきっと自分の運命を

悪い方に解釈し、実行するに違いない。」と踏んで取引を持ちかけた指導者の悪辣さに

反吐が出る。なんて薄汚いやり口なのだろう。

アメフトで人生を切り開こうとした人間が、そのアイデンティティーを奪われる恐怖は

どれほどのものだろう。

善悪の判断などできる精神状態ではなかろう。

むしろ「よーしっ、オレはやるぞっ!やってやる!!」と思ったに違いない。

 

社会人として数十年、酸いも甘いも知り尽くした人間ならともかく、まだ社会のしくみも知らぬ

若者にとって、今自分が所属する組織のみが「世界」なのだ。

なんであれ「学生」は狭い世界の住人。外の世界のことは全くわからない無垢な存在だ。

だから、社会は彼らを手厚く保護してやらねばならない。

そのような若者に対して、老練な社会人たる指導者が「バーター取引」を持ちかければ、若者

は間違いなく指導者の意のままに事を実行する。

しかも、指導者が責任は俺が取るとまで言えば、それを信じない理由などない。

無垢な若者の心を操り、相手を傷つけた挙げ句、自分は指示などしていないと言う指導者と

は何だ?

責任を若者1人に押しつけ、自分は素知らぬふりを通す指導者。

貴様は一体何者だ?

 

また、そのような破廉恥きわまりない「指導者」を擁護する組織(大学)とは何だ?

そのような体たらくで、最高学府たる「大学」の名を、よくも言えたものだ。

恥を知れ!

 

組織は必ず腐る。

大きな業績を上げ、組織に貢献したものが中枢に座り、権力を握る。

そのこと自体悪ではない。

問題は、権力を握った人間が、自分個人の利益のため勝手気ままに

振る舞うようになることだ。

そのような権力者は、権力を揮って他人を窮地に追い込み、その人間が転落してゆく様に

愉悦を感じるのかもしれず、自分の権力の前に他人がひれ伏すことに無上の喜びを見いだ

す、一種の異常者なのかもしれない。

権力の亡者にとって、権力を揮うこと自体がこの上ない快楽そのものなのだ。

そこまでいけば、自分の利益はもはやたいした問題ではない。

権力を揮うことが生き甲斐であり、当然権力を行使できる地位に留まることに執着する。

 

正常な組織であれば、自浄作用がはたらいて、そのような「イカレた権力者」を排除する

システムが作動するはずなのだ。

腐った部位を切除しなければ、その影響は組織全体に及ぶからだ。

しかし、どうも当該組織(大学)においてはそうではなさそうだ。

「アメフト部閥」が、学内で大きな力を持っていることがうかがえる。

アメフトOBは大勢いるし、卒業生も社会において活躍しているから、「大きすぎて潰せない」

だろうという計算がはたらいているのだろう。

どうやら「言った言わないの水掛け論」に持ち込もうとしているフシがある。

 

Aへの懐柔・圧力も同時に行われているだろう。

「真実を言ったところで相手にされない」とか「組織の汚点を告発するような人間は、組織から

相手にされない。就職できなくなるぞ。」とか、そのぐらいのことは平気で言いそうな組織で

ある。

あくまで推測だが。

このままのらりくらりと時を稼いでいれば、世間などすぐに関心をなくすという読みもある。

 

昨今の政治の世界も似たようなもので、なんだか双子の弟が突然現れたような錯覚にとら

われている。