財界に動きがないことを考えれば「台湾有事は日本有事」はないだろう。  | 野良猫の目

野良猫の目

~本当は寝ていたい~

 

かつて麻生前副総理、また最近では安倍元首相が「台湾有事は日本有事」である旨発言しました。そこで、今までにブログで書いたことから台湾有事という切り口で整理してみました。

私の推論がかなり入っています。内容の正確さは保証しません。

 

 

1.戦争は軍事力だけでやるものではない。

現在の中国依存の経済構造を転換させなければ、日本は中国と戦争するなどできません

この状態で日中で実質的な戦争になれば、日本の企業が資本を投下した生産設備、製品は中国に接収され、中国に駐在している日本人は収容されて、日本の企業は致命的な損害を受けるでしょう。そして、日本の生活者は色々な生活物資や食糧の貧乏に喘ぐことになるでしょう。

そのことは、日本の財界が一番良く知っている筈です。そして財界からも政治家からも、中国から資本を引き上げ、関連製品の生産拠点を日本に移すような動きは聞こえてきません。ここからも、「台湾有事は日本有事」発言が、国内向けの印象操作に過ぎないことと察することができます。

 

同じようなことは、米中の間でも言えるのではないかと考えています。米中の経済関係を考えれば、台湾有事、直ちに中米開戦とは行かないでしょう。米国や中国は、そのことを知りつつ、それぞれの国内の政争などの事情によって、仮想敵国を作る必要があるのだと考えています。

 

 

2.「台湾有事は日本有事」で国民の危機感を煽る真の目的はどこにあるのか。

財界の利益を代表する現在の日本政府にとって、台湾有事で日本国の軍隊としての自衛隊が中国軍と戦うようなことが絵空事であるにも関わらず、恰も目の前に迫った危機のように騒ぎたてる目的は、日本国民による米軍の軍事負担の肩代わりを正当化することにあると考えています。最近では、従来の思いやり予算を「同盟強靱化予算」と名前を変えて日本が5年間で総額1兆551億円を負担することとなったことが報道されています。

これらの一連のことを考えれば、自民党政権のやっていることは、米国が中国の太平洋覇権拡大を抑止するという名目のための費用を最大限に日本国民に負担させ、日本列島と島嶼、自衛隊の兵員と装備を米軍に差し出している、といっても言い過ぎではないと思います。このことをあからさまに言えば、国内で反対意見が強くなるでしょう。それを封じるためには危機感を煽り国民の安全のための負担であるとのプロパガンダが必要になります。

 

これによる日本側の利益は何があるのでしょう。

私に思い付くことは、米国は日本からの直接投資(※1)と日本との貿易、取り分け日本からの輸出(※2)を人質にとり、本来米国が負担すべきものを日本に押し付けていると考えています。その負担と引き換えに、日本の企業は安定した輸出環境が維持されるからです。こうして利益は日本側企業が受け、負担は税金という形で国民により重くのしかかるというものです。更には、日本の企業の利益はそこに投資している外資によってその利益の然るべき割合が外国に持ち出されると言うことになります(この辺りは実際に数字を確認していないので、憶測に過ぎませんが。)。

※1:2020年末時点で日本から米国への直接投資残高は約5980億ドルとなり、海外直接投資残高19,933億ドルの30%をしめています(「ジェトロ世界貿易投資報告 2021年版」による。)。

※2:2020年の日本から米国への輸出額は11801200万ドルとなり、日本の輸出総額の約18%を占めています(「ジェトロ世界貿易投資報告 2021年版」による。)。

 

 

3.米軍は日本を防衛するために日本にいるという幻想は捨てよう。

米軍は、日本列島をロシアや中国が太平洋に軍事展開することの防波堤として、そして、極東、中国、南西太平洋、インド洋地域に展開するための出撃拠点とするために日本に駐留しています。このことは中曽根元首相の“不沈空母発言”からも明らかです。米軍が日本から外国に出撃することは、事前協議の対象となりますが、日本政府はこれを断る事はないでしょう。

 

実際に米国と中国との間で戦争が起きれば、日本にある米軍基地と自衛隊の基地が攻撃目標となるでしょう。そのとき米軍は日本にある自分達の基地を守るために戦うのです。自衛隊に備えようとしている敵基地攻撃能力はそのためのものです。

そして、いざ海外での有事となれば、自衛隊が米軍の司令官の指揮の下に入ることは米国で公開された資料(指揮権密約と言われるもの)で確認されています(しかし日本政府はこの存在を否定しています。)。また安倍元首相は、2015年4月29日に米国連邦議会上下両院合同会議で行った英語の演説で日米の軍事力の一体化を宣言しました。これにより、現在、日本国内においても国外においても一部の自衛隊の訓練が米軍の指揮のもとに実施されています。

 

 

4.台湾有事で日本が国連憲章で言う集団的自衛権を行使することはあり得ない。

今年の7月に麻生副首相(当時)が「台湾有事→存立危機事態→日本が集団的自衛権を行使」みたいな絵を描いていましたが、とんでもないこじつけです。国連の加盟国ではない中華民国(台湾)が攻撃されたからといって、国連憲章でいう“集団自衛権”の行使として日本の軍隊が出ていくことはあり得ません。国連憲章では、「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、(第51条)」とあるからです。

アソウ元副首相がいう「集団的自衛権」というのは、言うなれば日本政府独自の語彙による日本語の固有名詞としての「集団的自衛権」というべきものです。こうして、国際法上は本来認められないことを、恰も国際法に適ったもののように偽装しているのです。

 

自民党政権下では(特に安倍元首相のころから)、言葉の意味の挿げ替えが頻繁に行われており、それによって、本来法に照らして認められていないものが、さも正当な行為であるかのような偽装がされています。それを無頓着に垂れ流しするメディアも困ったものだと、いらいらすることが多いのです。

 

 

 

【参考】国連憲章

第51条

この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。