敦が、前に言っていた」
思わぬ言葉に、葉月がザンを見上げる。
カナンを出る前だったか。葉月を連れて帰ると。葉月が全ての記憶を思い出すまでは、離婚はしないし、お前の存在も認めない、と。だが全てをお思い出して、葉月がお前を選ぶなら、その時は身を引くと、そう言微針美容 ったんだ」
(全ての記憶が戻るまで)
それは12年前の事を言っていたのだと、今なら分かる。
敦の言い分も理解できた。俺はカナンに残ると決めたし、敦に任せるのが一番良いと思ったんだ」
いつそんな話をしたの」
船に乗る前にシェアハウスで二人になった時間があった」
そうだったんだ」
だから敦はお前を捨てたわけじ謝偉業醫生 ゃない。お前が強く望めば戻って来るはずだ」
」
慰めるような言葉に、葉月は小さく頷いた。
敦は電話でああ言ったものの、彼が葉月の事を想って行動していることは分かっている。
そして、東雨宮から自由になりたいという言葉が単なる葉月と別れるための嘘ではないことも。
敦は、無事かな?」
ああ、あいつは人より運動神経もいいし、勘も働く。俺程ではないがな」
ザンがめずらしく冗談めいたことを言い、葉月はくすりと笑った。
不器用だが、ザンなりに必死で励まそうとしてくれているのが分かる。
その時だった。
雨宮邸から!えー、雨宮源一郎氏でしょうか?男性が出てきました!両脇を抱えられるようにして連行されています!!繰り返します!雨宮邸に動きがありました!雨宮源一郎氏と思われる男性が連行されてきました!!』
その言葉に、葉月とザンは再び画面に釘付けになる。
大きな正面玄関から、鉄格子の両開きの門までは結構な距離がある。
そこを源一郎が引きずられるようにして歩いて来た。
両手は前にあり、服がかけられている。
手錠を隠しているのだろう。
おじいさま」
いつもキッチリと白髪を後ろに撫で付けている、年の割にはオシャレな源一郎が、憔悴した表情で髪を振り乱して歩いていた。
葉月は幼い頃から父より祖父の方が好きだった。
今まで祖父の非道な行いばかりに気を取られて、昔の事を思い出す事がなかったのに、今になって思い出される。
頬を涙がつたう。
徐々に大きくなる人影に、葉月は息をのむ。
敦」
無事だったようだな」
源一郎の右側を支えて歩いているのが敦だった。ザンもほっとした声だった。
反対側はチームカナンの刑事だろう。栄太たちの姿はない。
レイに状況を尋ねて来る」
ザンはそっと葉月を話すと、電話を引き寄せて受話器を取った。
敦は厳しい表情で源一郎を連行していた。いつもの飄々とした快活さがない。
厳しい表情で淡々と職務を全うしていた。これが葉月の見た事がない、刑事としての敦の顔なのだろう。
見慣れたスーツにコートを着ていて、こめかみのあたりから一筋血が流れて固まっている。
(怪我してるの?)
えー、確認したところ、連行されて来るのが雨宮源一郎氏で間違いないようです!左右は警察で、一人負傷しているようですが、かすり傷だそうです。爆発によるものでしょうか』
交渉にあたっていた被害者達は無事ですか?』