続き…

 

それからまたしばらくした日曜日、僕はチラシの搬出作業の為、塾に来ていた。

全ての行程を終え、塾を出たのが、五時半頃…。

…二時と六時…だったか…。

僕はもう一度、あの橋を見に行く事にした。

夕焼け落ちる午後六時頃、僕は固唾を飲んでその橋を、下の道路から見ていた。

歩道橋は元より,付近に人影は全く無い。

 

にも関わらず、時計が午後六時少し前から、やはりザワザワとし始める…。

…何なんだ…、一体…。

そして夕暮れの薄闇に覆われた頃に、橋の輪郭が輝くようにぼやけて見え始めた…。

僕は全神経を集中してその橋を見た。

…橋が…白く光っている…?いや…違う…

僕は呆けたように、それを見ていた。

…橋が…蠢いている…

ハッと正気を取り戻した僕は、その蠢きを凝視したが、はっきりと正体がわかる筈もない。

わかったのは、水がゆっくりと流れるようにその光は、歩道橋の『橋』の部分にだけ発生していて、階段の部分には無い。

 

そしてその方向は常に一定に思えた。

そうこうしている内にその光は消えてしまった。

…ああ…確かに…、色が変わった。すごい物を見た…

と、その余韻に浸りながらも、僕はその正体が気になって仕方が無かった。

歩道橋を登ってみたが、以前と何も変わらない。

幾万の、蛍のような虫の仕業かと思ったが、それも現実的では無い。

ただ、断じて初めに予想したような『光の悪戯』では無いと強く感じた。

何の手掛かりも掴めなかった僕だったが、一つだけ覚えている事があった。

 

光の方向だ。

 

あの光は、橋の上でどちらの方向から来ていたのか…、と考え、僕はその方向へ原付を走らせた。

当時、僕のガラケーにはコンパス機能があった。なので方向音痴の僕でも、方向に関してだけは、限りなく正確に追跡が可能だった。

だだっ広い空地と稼働終了した工場が建ち並ぶ、人気の無い道を進むと…、其処に…ぽつんと…、…枯草繁る古く寂しい共同墓地があった。

それなりに広い敷地に生える、角の欠けたような古い墓石たちに囲まれるように、その中央に…無縁仏と刻まれた大きな石碑が置かれていた。

それは見るからに寂しく、見ているだけで悲しくなるような墓場だった…。

それ以外にめぼしい物が見付けられなかった僕は、今度はその逆方向、あの光が流れる先に原付を走らせた。

コンパスが指す方向を正確に辿った先には、あの僕が目印にしていた寺があった。

 

 



ここからは僕の想像だ。

僕が徒歩で塾に通っていた時期、僕は何度もあのお寺からの読経を耳にした。

 

僕があのお寺の前を通る時間は…、通常なら二時頃…。言い換えればあのお寺の住職は毎日午後二時頃に読経を行っていると考えられる。

そこから橋を跨いで直線上には、無縁仏を慰霊する共同墓地。

無縁仏は…無縁ゆえに、誰に供養されるわけでも無いなら、自ずから寺に出向いて供養を受けているのでは無いだろうか?

噂にあった二時、六時、本当はもっと他の時間もあるのだろうが、お寺の読経が始まる決まった時間に、霊たちは寺に訪れる。

 

これが特定の時間に怪異が起こるという正体だ。



霊たちがあの共同墓地から、あの橋を渡り、寺を訪れる、と仮定すると、その途中にあるあの橋はその霊道と重なっている、と考えられる。

あの歩道橋付近では、過去に多くの不審な事故が起こっていた、そしてそれは歩道橋が出来た後にも続いていたとも聞いた。

あの歩道橋が出来る前は、霊たちはその下の道路を横断していたと考えられる。

 

ならば道路を走る車の…少し霊感の強い運転手ならば、その霊たちを目撃し、驚いて事故を起こした可能性がある。

 

つまり何も無い場所で急ハンドルを切ったような…、不審な事故だ。


ある本で読んだ事がある。霊道の移動方法だ。

 

霊道の移動には、霊たちに誘導する先の道を知らせてやる必要がある。

それは『言霊』や『色霊』と呼ばれる手法に近い方法だと思う。

 

簡単に言うと、霊たちを文字や、色で導いて成仏させる方法だ。

 

つまり『仏』という偉大な文字で彼らを道路から、橋の上を渡るように誘導したのだ。

 

ちなみに確か、紫色も『極楽』を表す色だったと思う。

霊道が道路から橋の上に誘導された事により、その霊たちが原因であった不審な事故を減らす事に成功した。

人によって見え方が異なるのはその人の霊感の強さによるのだろうが、 あの墓石の数からして、かなりの数の霊たちが密集して歩くあの歩道橋は、その密度から、あの寺の読経の時間付近には、まるで色が変わったように見えるのでは無いだろうか?



…どちらにせよ、害があるような物では無さそうだった…な。



色の変わる橋。

 

無邪気な子供たちに語られる都市伝説の裏には、何か悲しくて寂しい、そんな霊たちが隠れているのかも知れない…。





ただ驚くべき事は、的確にそれを見抜き、措置を施した、『仏』という文字を描いた人物がいた事だ…。

 

一体、何者なんだろうか…?是非、友人になりたい(笑)

まぁ、僕の推理が当たっていればの話だが…。