先に書いた『幻の街』にアップしたいと思い、その画像を探していたら、非常に昔に書いた文章が出てきた。昔の方がゆっくりと時間をかけて書いていたので面白い気がする…。複雑な気分だがアップしてみようかと思う…。

 

 

 

大学一回生になったばかりの時、生まれて初めてのバイトをしてみようと思い、なんとか面接に合格した小さな個人経営の塾講師のバイト、そこの塾長が色々な意味で興味深い人だった。


その人は一般的な塾長にしては若く、なんでも良く知っていて、生徒からも人気があり…変な人だった。

 

最近流行りの個別指導形式の塾で、一つの部屋をついたて板のようなパーティションで六つのブースに区切る形で、少人数制の授業が行われていた。


ある時、授業終わりに、その先生が

 

「男子でも、女子でも、基本的に子供達みんなに聴きたいって言わせられる話って何かわかる?」

 

と聞いてきた。僕は少し考えてから

 

「音楽とか…、ですか?」

 

先生は少し目線を上に向けながら『60点』と言った。

 

「音楽は確かにみんな好きそうだけど、人によって聴く音楽の種類が違う…。つまり統一性がないから、三人中三人に興味持たせられるかって言うとちょっと弱いかな…。答えは怖い話や不思議な話。10人中8人は聴きたいって言うよ…。」

 

と先生は言った。それがどうしたんだろうと頭で思いながらも、一応オカルトにも興味があったので、

 

「例えばどんなんですか?」

 

と聞いてみた。すると先生は

 

「う~ん…。色々あるんだがなぁ…。とりあえず軽めだけど、現在進行形の事を話そうか…。」

 

と言って話し初めた。

 

先日、先生は自分の生徒達に感化されて、レンタルビデオ屋で視聴者から投稿形式の某有名心霊DVDを借りて見ていた。少し見てからすぐに、

 

…ははぁ、これは偽物だな…

 

とすぐにわかったのだが、それは良くできていて面白かったので、後日またそのシリーズの続編を借りて見ていた。

 

ある時、それを見ている最中にいきなりDVDデッキが停止して、最初まで戻ったのが初まりだった。

 

最初はその事に関して全く気にならなかったのだが、何度も同じ事が起こり、

 

…デッキが壊れたかな…

 

なんて思っていると、次はテレビの電源が切れた。

 

DVDのデッキは外付けであり、テレビとDVDの電源はそれぞれ独立している。

 

つまりどちらかが壊れていても影響し合う事はないはずなので、徐々にだが気味が悪くなってきた。

 

それが今から3日前の日曜日。それから毎日一つずつ妙な事が起こり始めた。

 

次の日の月曜日、先生は塾に到着し、まだ誰もいない教室の鍵を開け、コンピューターを立ち上げて、仕事を始めた。

 

仕事にキリがつき、ちょっと外に煙草を吸いに出て、帰って来たらコンピューターの電源が落ちていた。

 

…おいおい、接触不良かなんかか…?中のデータは無事であってくれよ…

 

等と考えながら、もう一度電源を入れた。

 

すると通常通りモニターにはWindowsへようこそ、と表示されて、次にいつも通りのデスクトップが映し出された。

 

おかしい…。通常、不慮の事故等で電源が落ちた場合、直前のセッションを復元する復帰プログラムが作動するはずなのに…。

 

と少し不振に思ったのだが、それ以上は考える事はしなかった。

 

火曜日、塾というのは夜型の仕事だ。その日も仕事が終わり家に着いたのは深夜12時を越えていた。

 

とりあえず夕食を取り、風呂に入ったのが大体1時頃…。

 

彼が風呂に入っていると、台所から、ピピー、ピピー、と電子音が聞こえてくる。どうやらそれは冷蔵庫のドアが開いたままになっている事を知らせる音だったようだ。

 

…あ、冷蔵庫が開いてる…、早く風呂あがって閉めにいかないと…。

 

と思い、急ぎ体を洗い風呂を出ようとした時に、バタン、と冷蔵庫の扉がしまる音がして、音が止んだ。

 

もちろん台所には誰もいた形跡は無く、真っ暗だった。

 

 『へぇ、なんか不思議ですね…、現在進行形で、毎日なんか起こってるって事は今日もなんかあったんですか?』

 

と聞いてみると彼はニヤッと笑い、

 

『そうそう、今の君の質問が、生徒達からくるものと同じなんだ。な。怖い話って結構、誰にでも興味を持たせられるだろ?君は能力的には問題が無いんだが、どうも授業が面白くなさそうだ。別に怖い話じゃなくてもいい…、少しは授業の時間を使ってもいいから、生徒達と話をして、まずは仲良くなって下さい。生徒達も、先生の言う事よりも、仲のいい人の言う事の方を聞こうと思うもんだ。結果、成績も上がるし、塾も楽しくなる。』

 

と言った。

 

…なるほどな…

 

と僕は感心して

 

『わかりました。ありがとうございます。』

 

と答えた。すると塾長は

 

『うん。頑張って。で、そういえば今日はまだ何も起こってないな…。』

 

と言った。

 

『あれ?今の話って生徒に興味を持たすための、作り話じゃなかったんですか?』

 

『ははは、今の話の流れじゃ、そう思われても仕方ないな…。これは事実。』

 

彼はそう言って笑った。今考えれば失礼な質問だった気もするのだが、この塾長にはすごく話しやすいので、ついそんな事も口から出てきてしまうのだ。塾長は

 

『あのコンピュータの電源も、ひょっとしたら誰かが勝手にシャットダウンしたのかも知れないな…。まぁ 塾内には誰もいなかったんだけど…。人は…。』

 

塾長は明らかに僕を怖がらせようとしているようにそう言ってまた笑った。

 

この時点では僕は正直さっきの話は完全に塾長の創作か、気のせいであり、ただの生徒受けするお話だと思っていた。

 

すると突然、授業終わりで僕ら二人以外、誰もいない教室の後方から、神社のあの大きな鈴が鳴るような音が響き渡った。

 

突然の不意打ちに僕は心底びっくりして後を振り返ったのだが、そこには何も無かった。

 

塾長の方を見てみると、驚いた顔をしていたが、短くこういった。

 

『な、本当だっただろ?』

 

と言って小さく笑った。

 

 

 

 

皆様、おわかりだろう。この話にでてくる塾長は勿論、僕の事である。これはあの『電化製品が壊れる時期』の一時期の話だ。そしてこの原文を書いたのは、あの『カミヤシキ』にも一緒に行った、段先生である。つまり段先生目線から見た僕はこう映っていたようだ…。まぁ確かに変な塾長だが、客観的に見るとそれほど嫌な気分ではないのは自分の事だからだろうか?(笑)