「先生ー。ま~だガラケーなん!いい加減スマホにしーやー」
「うるさい!」
とか言いつつも、先日ついに僕も携帯の機種変更をした。
僕の記事を読まれている方々も、スマホでご覧になっておられる方が多いのではないだろうか?
そして一度はその機種変更の手続きの御経験があると思う。
機種変更をした際に、あくまでも『只のサービスとして』という前置きをして連絡先の移行をしてくれる…。
無事に機種変更を終え、店先で新しくなった携帯の確認をしていると、連絡先の一番始めに『青山涼子』と僕の知らない名前があった…。
友人…生徒…と全く僕の身に覚えの無い名前だ。
その時は古い方の携帯も持っていたので、照らし合わせてそれを確認をしてみても、やはり元々持っていた方にはそんな名前など無かった。
僕は目の前でニコニコしながら座っている店員に
「すいません…何か身に覚えの無い名前が…あるんですが…」
と尋ね、そして古い携帯と共に渡すと
「…青山…さん…?なんやこれ!怖い!ちょっと聞いて来ます!」
と、焦りを隠そうともせずに店の奥に入ってしまった…。
…おい、言葉使い…と思ったが…それ以上に僕には何かしら正体不明の違和感があった…
僕がその違和感の正体を模索していると
「お待たせしました」
と先刻の店員とは別の男性の店員が現れて
「お客様…。シークレットモードに登録中の連絡先は、移行の際にシークレットが外れて表示されるようになっておりまして…。多分それかと…」
…シークレットモード?連絡先を隠すモードか…
…いやいや…僕はシークレットモード等を使った事は無い。よしんば使っていたとしても、その名前が出てきたのならに心当たりぐらいはある筈だ…。
「ではこの古い携帯のシークレットの中にその名前が入ってるんですね…?ではどうやってシークレットって外すんですか?」
と問うと
「パスワードを打ち込んで」
という説明が入った。
…パスワード!?
「すいません…僕は自分の携帯のパスワードを知らないんですが…」
…そう…僕は携帯に無頓着で電話とメールが出来ればそれで良い…という考え方だ。
その他の事では、こういった『怖い話』を書くぐらいにしか利用していない…。
…ふと顔を上げると
…明らかに無理をして笑顔と作っているような男性店員の顔…と、その店の奥に繋がる通路の方から隠れるようにして、先刻の女性店員がこちらを見ている…
…なんだ…どうした…?僕が何かしたのか…?
だがその時の僕にはそれを確かめる時間が無かった…。
塾は夜型の仕事だ…。つまり携帯の機種変更等といった用事は必然的に昼間…仕事前に行かなければいけない…。
つまり塾が始まる時間が迫っていたのだ…。
「すいません…。時間が無いので…。とりあえず使えれば問題は無いので…」
と言って僕は急ぎ店を出た…。
気のせいかも知れないが、背中に刺すような視線…恐らく複数の店員の視線を感じながら…。
塾に遅れる事なく到着し、僕はその日中、ずっとあの違和感の正体を考えていた…。
結局は想像にしか過ぎないのだが、違和感の正体が判明した…。
それはあの女店員の『青山涼子』という名前を聞いた時の反応だ。
彼女は確かに『青山さん』…『さん』…と言った。
客に対する敬語が染み付いているのか…?いや…それよりもあの時の彼女の雰囲気からして……それは…『青山涼子』は彼女が知っている名前であるような…そんな反応だった…。
またあの男性店員の…作り笑顔…。
僕がパスワードも知らないのにシークレット機能を使える訳がないと納得した顔なのか…、それとも…彼も『青山涼子』の名を知っている…?
ひょっとして『青山涼子』とは全国的に色々な携帯に現れる…携帯ショップの店員の間で語られる…都市伝説のようなものなのだろうか…?
そんな事を考えていると
「先生やっと携帯変えたんー。どんなん?見してやー」
とまた冒頭の生徒がやって来た。
「…あら…耳が早いな…。ってか俺が言ってたっけ?」
「うん…誰かに言ってたのが聞こえた。」
「はいはい…」
と言って僕は新しい携帯を渡した。
「…え…これって…。」
彼女は驚きを隠せなかったようだ。
「何でまたガラケーやねん!!スマホにしたって言ってたやん!!」
「んなこと言ってないわ。機種変したって言っただけやん…」
「スマホにしろって言ったやんか!」
「何でお前の言うことなんか聞かなあかんねん!(笑)」
「!? あ゛ーーーーーっ。めっちゃ腹立つー!!!」
…女性ってのはどうやってこの『あ』に濁点のような奇妙な音を出してるんやろう…?
…うーん…口だけじゃないな…。どっかが共鳴してるのか…?鼻…いや耳か…?
「なぁ…。その『あ』にてんてんを打ったみたいな音さ…。どうやって出してるん?ひょっとして耳か?」
と我慢出来ずに尋ねると
「耳・か・ら・声・が・出・る・か!! あ゛――――!!もう!!めっちゃ腹立つー!!」
とさっきのよりも1オクターブ上がった声が、休憩時間中の塾内に響く。
…世の中にはまだまだ科学で解決出来ない事が山ほどあるんやな…。
と奇声をあげるUMAのような生徒を見ながら染々と思った…。
結局『青山涼子』の事は何もわからない…。
しかしこの日はよく笑ったからか、良く眠れた…。
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