結果論で考えれば、全てが気のせいであり、また怪奇なものになりうる…。とにかく僕らは生きていて、何も巻き込まれていない…。だが、あそこには何か、秘密があったのは間違いなさそうだ…。

 

 

(前回からの続き)

 

『おい…。あのプレハブ…覚えてるか…。黒い袋あったやろ…。』


下田はそう話を始めた…。


『あったあった。あ、そうや!ひょっとして御神体の事か?ランドセルの上にあった…。』


『ランドセル…。あったな…。赤いやつやろ…。』

 

どうやら下田が恐れているのは御神体ではないらしい…。

 

そして下田はとんでもない事を言った。

 

『ランドセル背負ってた子…。あん中におったかもしれへんねん…。』


『……は?…人がおったん?』


『いや…。わからんけど…。』


『…?…はっきり言えよ!』


『黒い袋やって…!。一個破れてて中からが見えた…。』


…一瞬の沈黙、一瞬で吹き出る汗。

 

なんだ…何を言っている…人が隠れられるような大きさではない…。

 

つまり…バラバラになった手だけ…


『は!?嘘やろ…。見間違いやろ…。』


『見間違いかもな…。』


と力なく言った。


…違うんだろうな…。きっと確信があるんだろう…あの豹変ぶり…。

 

僕はそう思った。

 

…だから早く山を下りたかったのか…。

 

万が一それを行った人間が帰ってくる前に…。


『神社まで行ったからもう大丈夫と思ったよ…。最初はな…。』


彼は続けた。よく見ると彼は震えている…。


『あの時、ベンチに座ってさ…。お前、おじぎしたやろ?で俺も振り返った…。』


『うん…。』


たしかにあの時、方向的には下田の後ろ側にあいつがいた。


『振り返った時に、目に入ったんは軽トラやってん…。』


『ああ…。そういやあったな…。』


『軽トラの荷台見たか!?』


『いや…。』


『あの黒い袋がのってた…。』


僕も体が震え始めた…。汗が滲み始めた…。


『それは死体じゃないと思う!でもな…同じ袋やん。同じ袋を持っててんて!しかも意味わからん話するし…』


確かに…あいつは何かがおかしかった。

 

ああいう話が好きだった僕が何故、あの話に惹かれなかったのか…?

 

それはきっと下田の様子がおかしかったからだけじゃない。

 

その場で取って付けられたような話、そしてあいつの情緒不安定さからもあっただろう…。


『スーパーにもさ、いるし…。確実に…俺らを殺す気やったやろ…。』


下田はファインプレーだった。

 

意図はしていないが、その時に僕にそれらの事を知らせなかったのだから…。

 

そんな事を知ってしまえば冷静でいられる訳がない…。

 

最悪の場合…つまり…あいつが…本当に殺人犯だった場合…僕らは原付のナンバーも覚えられていて…。


僕は本当に心底震えあがった。

 

その後しばらくは不安で外を出歩くのが嫌だった。

 

その神社があった地域で何か事件がなかったか毎日チェックした。

 

しかしバラバラ殺人は勿論、どんな事件も報道されなかった。


ただ、今考えればその状況ならスーパーに似ていた人間がいて、それに下田が過剰に反応し、それにつられて僕もそう思ってしまった可能性が高い…。

 

また黒い袋の手も、あのプレハブには彫像がたくさんあったのだから、その一部かも知れない…。

 

何よりも僕らは若かった。あの時はまだ免許も取り立ての16才だったから…。
 

 


それでもあの時に出会ったあいつは何か変だった事は否めない…。

 

何故ならば僕はどうしても気になって、大人になってからあの神社を調べに行ったから…。

 

その時はあの神社に人はいなかった。

 

仕方ないので周辺の神社や寺に聞いてみた所、やはりあいつが言ったような伝説に心当たりはないようだった。

 

しかも僕らがあの神社に行った当時、その神社は神主不在だった事もわかった。

 

だが気になる事を一つ言われた…。いつの頃かわからないが、その神社に泥棒が入って色々と持っていかれた事があった…と。

 

山中の祠に関しては詳しい事はわからなかった。

 

ただ位置的には祠の奥に、過去本殿があったらしく、大阪夏の陣の際、徳川が豊臣勢を攻めた時に、焼失したとの事だ。

 

その焼失した神社は聞けば誰でも知っているような有名な神社だが、あの祠とは関係が無いようだとの事。

 

誰ががいつの頃か勝手に作った個人的な物ではないか…とも言われた。

 

僕らが奥で見たプレハブの存在など、誰も知らなかった。

 

ならあいつは神主不在の神社で一体何をしていたのだろうか?

 

だが竹棒を持っていたのも事実でやはり掃除に来ていた地域の住民だろうか…。

 

何故あんな話をして、僕らをあの場所に近づけまいとしたのだろうか?

あの存在しないはずのプレハブに使われていた素材…。

 

襖のような物や、障子や和紙もあった。

 

そしてあのランドセルの上に置かれた御神体のような鏡…。

 

回りに並べられていた彫像には狛犬のような物や地蔵のような物もあった…。

 

まるであれはその辺から盗み集めて造られた…手作りの神社…。

そういえば…下田と来る前に僕が一人で迷っていた時に、聞いたあの『キーヒッヒッヒ…』という声は…のそれに…似ていた…。

 

そういえばあいつは…猿の化物…そう言っていた…。

所々相違する事実と証言。

一番合理的な解釈が、近くの神社で言われた『狐にでも化かされたんじゃないか?』だった…。

結局真相はわからない…。

 

 

 

書いていて懐かしくなりました…。近々、暇があれば、もう一度行ってみようか等と思っています…。